自動車運転者の注意義務
(平成5年10月12日最高裁)
事件番号 平成3(あ)1204
最高裁判所の見解
一 原判決及びその是認する第一審判決の認定によると、
(1)被告人は、普通乗用自動車に妻を同乗させて運転中、
交差点から約五〇メートル手前の地点で信号待ちのために
前車に追随して停止し、同所で妻を後部左側ドアから降車させようとした、
(2)同所付近は、交通頻繁な市街地域であり、かつ、
被告人車と左側歩道との間には約一・七メートルの通行余地があった、
(3)被告人は、単に自車左側のフェンダーミラーを一べつしたのみで、
後方から接近する車両はないものと考え、
妻に対して降車の指示をし、これに従って
同女が不用意に後部左側ドアを開けたところ、
後方から走行してきた被害者運転の原動機付自転車が
ドア先端部に衝突し、被害者が傷害を負った、というのである。
二 右のような状況の下で停車した場合、自動車運転者は、
同乗者が降車するに当たり、フェンダーミラー等を通じて
左後方の安全を確認した上で、開扉を指示するなど
適切な措置を採るべき注意義を負うというべきであるところ、
被告人は、これを怠り、進行してくる被害者運転車両を看過し、
そのため同乗者である妻に対して適切な指示を
行わなかったものと認められる。
この点に関して被告人は、公判廷において、
妻に対して「ドアをばんと開けるな。」と言った旨供述するが、
右の言辞が妻に左後方の安全を確認した上でドアを開けることを
指示したものであるとしても、前記注意義務は、
被告人の自動車運転者としての立場に基づき
発生するものと解されるから、同乗者に
その履行を代行させることは許されないというべきであって、
右のように告げただけでは、
自己の注意義務を尽くしたものとはいえない。
これと同旨の見解に立つて、
被告人の過失を肯認した原判断は、正当である。
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