船荷証券が発行されている商品の輸出取引による収益を船積みの時点で計上する会計処理

(平成5年11月25日最高裁)

事件番号  平成4(行ツ)45

 

最高裁判所の見解

1 上告人は、ビデオデッキ、カラーテレビ等の

輸出取引を業とする株式会社であるが、

上告人と海外の顧客との間の輸出取引は、

上告人において輸出商品を船積みし、

運送人から船荷証券の発行を受けた上、

商品代金取立てのための為替手形を振り出して、

これに船荷証券その他の船積書類を添付し、

いわゆる荷為替手形として、これを上告人の取引銀行で

買い取ってもらうというものであった。

 

なお、D商業会議所において採択された

貿易条件の解釈に関する国際規則(インコタームス)に示された

主要貿易条件に関する統一的解釈によれば、

右のように船荷証券が発行されている場合には、

上告人が採用しているいずれの貿易条件によっても、

売主が船荷証券を中心とする船積書類を整えて

買主に提供したときに、商品の所有権は買主に移転し、

その効果が船積みの時にさかのぼるものとされている。

 

2 今日の輸出取引においては、

信用状の授受や輸出保険制度の利用により、

売主は商品の船積みを完了すれば、

取引銀行において為替手形を買い取ってもらうことにより

売買代金の回収を図り得る実情にある。

 

このような輸出取引の実情を背景として、

輸出取引による収益の計上については、

船積時を基準として収益を計上する会計処理

(以下、この会計処理基準を「船積日基準」という。)が、

実務上は、広く一般的に採用されている。

 

3 ところが、上告人は、前記の荷為替手形を取引銀行で

買い取ってもらう際に船荷証券を取引銀行に交付することによって

商品の引渡しをしたものとして、従前から、

荷為替手形の買取りの時点において、

その輸出取引による収益を計上してきており

(以下、この会計処理基準を「為替取組日基準」という。)、

昭和五五年三月期及び同五六年三月期においても、

輸出取引による収益を右の為替取組日基準によって

計上して所得金額を計算し、法人税の申告を行った。

 

4 これに対し、被上告人は、為替取組日基準により

収益を計上する会計処理は、

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合せず、

輸出取引による収益を船積日基準によって計上すべきものとして、

上告人の昭和五五年三月期及び同五六年三月期の

所得金額及び法人税額の更正を行った。

 

二 法人税法上、内国法人の各事業年度の所得の金額の

計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、

別段の定めがあるものを除き、資本等取引以外の取引に係る

収益の額とするものとされ(二二条二項)、

当該事業年度の収益の額は、一般に公正妥当と認められる

会計処理の基準に従って計算すべきものとされている(同条四項)。

 

したがって、ある収益をどの事業年度に計上すべきかは、

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従うべきであり、

これによれば、収益は、その実現があった時、

すなわち、その収入すべき権利が確定したときの属する

年度の益金に計上すべきものと考えられる。

 

もっとも、法人税法二二条四項は、現に法人のした利益計算が

法人税法の企図する公平な所得計算という要請に反するものでない限り、

課税所得の計算上もこれを是認するのが相当であるとの見地から、

収益を一般に公正妥当と認められる

会計処理の基準に従って計上すべきものと定めたものと解されるから、

右の権利の確定時期に関する会計処理を、

法律上どの時点で権利の行使が可能となるかという基準を

唯一の基準としてしなければならないとするのは相当でなく、

取引の経済的実態からみて合理的なものとみられる

収益計上の基準の中から、当該法人が特定の基準を選択し、

継続してその基準によって収益を計上している場合には、

法人税法上も右会計処理を正当なものとして是認すべきである。

 

しかし、その権利の実現が未確定であるにもかかわらず

これを収益に計上したり、

既に確定した収入すべき権利を現金の回収を待って

収益に計上するなどの会計処理は、

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものとは

認め難いものというべきである。

 

三1 これを本件のようなたな卸資産の販売による収益についてみると、

前記の事実関係によれば、船荷証券が発行されている

本件の場合には、船荷証券が買主に提供されることによって、

商品の完全な引渡しが完了し、代金請求権の行使が

法律上可能になるものというべきである。

 

したがって、法律上どの時点で代金請求権の

行使が可能となるかという基準によってみるならば、

買主に船荷証券を提供した時点において、

商品の引渡しにより収入すべき権利が確定したものとして、

その収益を計上するという会計処理が相当なものということになる。

 

しかし、今日の輸出取引においては、既に商品の船積時点で、

売買契約に基づく売主の引渡義務の履行は、

実質的に完了したものとみられるとともに、

前記のとおり、売主は、商品の船積みを完了すれば、

その時点以降はいつでも、取引銀行に為替手形を買い取ってもらうことにより、

売買代金相当額の回収を図り得るという実情にあるから、

右船積時点において、売買契約による代金請求権が

確定したものとみることができる。

 

したがって、このような輸出取引の経済的実態からすると、

船荷証券が発行されている場合でも、

商品の船積時点において、その取引によって収入すべき

権利が既に確定したものとして、

これを収益に計上するという会計処理も、

合理的なものというべきであり、

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に適合するものということができる。

 

2 これに対して、上告人が採用している会計処理は、

荷為替手形を取引銀行で買い取ってもらう際に

船荷証券を取引銀行に交付することによって商品の引渡しをしたものとして、

為替取組日基準によって収益を計上するものである。

 

しかし、この船荷証券の交付は、売買契約に基づく

引渡義務の履行としてされるものではなく、

為替手形を買い取ってもらうための担保として、

これを取引銀行に提供するものであるから、

右の交付の時点をもって売買契約上の商品の引渡しが

あったとすることはできない。

 

そうすると、上告人が採用している為替取組日基準は、

右のように商品の船積みによって既に

確定したものとみられる売買代金請求権を、

為替手形を取引銀行に買い取ってもらうことにより

現実に売買代金相当額を回収する時点まで待って、

収益に計上するものであって、その収益計上時期を

人為的に操作する余地を生じさせる点において、

一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に

適合するものとはいえないというべきである。

 

このような処理による企業の利益計算は、

法人税法の企図する公平な所得計算の

要請という観点からも是認し難いものといわざるを得ない。

 

3 以上のとおり、為替取組日基準によって

輸出取引による収益を計上する会計処理は、

公正妥当と認められる会計処理の基準に適合しないものであるのに対し、

船積日基準によって輸出取引による収益を計上する会計処理は、

公正妥当と認められる会計処理の基準に適合し、

しかも、前記のとおり、実務上も広く一般的に

採用されていることからすれば、被上告人が、

船積日基準によって、上告人の昭和五五年三月期及び

同五六年三月期の所得金額及び法人税額の更正を行ったことは、

適法というべきである。

 

四 これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができ、

原判決に所論の違法はない。

 

論旨は、これと異なる見解に立ち又は原判決を

正解しないでこれを論難するものであって、

採用することができない。

 

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