著作権確認等請求
(平成13年6月8日最高裁)
事件番号 平成12(オ)929
最高裁判所の見解
(1) 我が国に住所等を有しない被告に対し提起された
不法行為に基づく損害賠償請求訴訟につき,
民訴法の不法行為地の裁判籍の規定
(民訴法5条9号,本件については旧民訴法15条)に
依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するためには,
原則として,被告が我が国においてした行為により原告の法益について
損害が生じたとの客観的事実関係が
証明されれば足りると解するのが相当である。
けだし,この事実関係が存在するなら,通常,被告を本案につき
応訴させることに合理的な理由があり,
国際社会における裁判機能の分配の観点からみても,
我が国の裁判権の行使を正当とするに十分な
法的関連があるということができるからである。
本件請求①については,被上告人が本件警告書を
我が国内において宛先各社に到達させたことにより
上告人の業務が妨害されたと者ことに外国にある被告が
その結果を予測することも著しく困難となり,
かえって不相当である。
結局,原審の上記判断には,法令の解釈適用を
誤った違法があるといわなければならない。
(2) 本件請求②は,請求の目的たる財産が我が国に存在するから,
我が国の民訴法の規定する財産所在地の
裁判籍(民訴法5条4号,旧民訴法8条)が
我が国内にあることは明らかである。
ところで,著作権は,ベルヌ条約により,
同盟国において相互に保護されるものであるから,
仮に,被上告人が本件著作物につきタイ王国における著作権を
上告人と共有しているとすれば,日本においても,
被上告人のタイ王国における共有著作権が保護されることになる。
被上告人がタイ訴訟において本件著作物について
タイ王国における著作権を共有していると主張している事実は,
本件請求②の紛争としての成熟性,
ひいては確認の利益を基礎づけるのに十分であり,
本件請求②の確認の利益を否定した原判決には,
法令の解釈適用を誤った違法がある。
よって,本件請求②については,
我が国の裁判所に国際裁判管轄があることを肯定すべきである。
(3) 本件請求③ないし⑥は,いずれも本件請求①及び②と併合されている。
ある管轄原因により我が国の裁判所の国際裁判管轄が
肯定される請求の当事者間における他の請求につき,
民訴法の併合請求の裁判籍の規定(民訴法7条本文,旧民訴法21条)に
依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するためには,
両請求間に密接な関係が認められることを要すると解するのが相当である。
けだし,同一当事者間のある請求について我が国の裁判所の
国際裁判管轄が肯定されるとしても,
これと密接な関係のない請求を併合することは,
国際社会における裁判機能の合理的な
分配の観点からみて相当ではなく,また,
これにより裁判が複雑長期化するおそれがあるからである。
これを本件についてみると,本件請求③ないし⑥は,
いずれも本件著作物の著作権の帰属ないし
その独占的利用権の有無をめぐる紛争として,
本件請求①及び②と実質的に争点を同じくし,
密接な関係があるということができる。
よって,本件請求③ないし⑥についても,
我が国の裁判所に国際裁判管轄があることを肯定すべきである。
(4) 本件訴訟とタイ訴訟の請求の内容は同一ではなく,
訴訟物が異なるのであるから,
タイ訴訟の争点の一つが本件著作物についての
独占的利用権の有無であり,
これが本件訴訟の争点と共通するところがあるとしても,
本件訴訟について被上告人を我が国の裁判権に
服させることが当事者間の公平,裁判の適正・迅速を期するという
理念に反するものということはできない。
その他,本件訴訟について我が国の裁判所の
国際裁判管轄を否定すべき特段の事情があるとは認められない。
5 結論
以上に説示したとおり,本件各請求につき
我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定し,
本件請求②については訴えの利益も肯定すべきである。
これと異なる見解の下に,上告人の本件訴えを却下すべきものとした
原審及び第1審の判断には,いずれも判決に影響を及ぼすことが
明らかな法令の違反がある。
論旨は,この趣旨をいうものとして理由がある。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,
原判決を破棄し,第1審判決を取り消し,
本案について審理させるため,
本件を第1審裁判所に差し戻すこととする。
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