行政事件訴訟法12条3項,国民年金法20条1項,国民年金法20条2項,国民年金法21条1項

(平成13年2月27日最高裁)

事件番号  平成12(行フ)2

 

最高裁判所の見解

(1)相手方は,抗告人社会保険庁長官のした

昭和35年2月22日付け裁定に基づき,

国民年金法(昭和60年法律第34号による改正前のもの)による

障害福祉年金を受ける権利を有しており,

国民年金法等の一部を改正する法律(昭和60年法律第34号)附則25条1項により,

昭和61年4月1日以降,国民年金法30条の4第1項に該当するものとみなされて,

同項の障害基礎年金の受給権者となったが,

国民年金法(平成6年法律第95号による改正前のもの)36条の3により,

平成5年7月までその全部の支給を停止され,

同年8月からこれを支給されていた。

 

(2) 相手方は,平成4年4月から地方公務員等共済組合法

(平成6年法律第99号による改正前のもの)附則19条に基づく

特別支給の退職共済年金の支給が開始され,

平成9年3月から地方公務員等共済組合法78条に基づく

退職共済年金を支給されていた。

 

(3) 相手方は,平成9年5月1日,国民年金法

(平成9年法律第48号による改正前のもの)3条2項,

国民年金法施行令(平成11年政令第393号による改正前のもの。以下同じ。)

1条2号イに基づく社会保険庁長官の委任を受けた和歌山県知事から,

国民年金法の老齢基礎年金を平成9年3月から支給する旨の裁定を受けた。

 

(4) ところで,国民年金法の障害基礎年金と

地方公務員等共済組合法の退職共済年金

(特別支給の退職共済年金を含む。以下同じ。)とを

併給することはできず,また,国民年金法の老齢基礎年金と

障害基礎年金とを併給することもできず,

これらの併給することができない年金給付の受給権が併存する場合には,

そのいずれの年金給付についてもいったんその支給を停止するものとされ

(国民年金法20条1項,地方公務員等共済組合法(平成9年法律第48号による

改正前のもの。以下同じ。)76条1項1号),

支給を停止するものとされた年金給付の受給権者は

その支給の停止の解除を申請することができ,

この申請があった場合には,当該申請に係る年金給付については,

支給の停止を行わないものとされている

(国民年金法20条2項,地方公務員等共済組合法76条3項,4項)。

 

このように,併給することができない複数の年金給付の

受給権が併存する(以下「併給関係にある」という。)場合の調整方法として,

法は,すべての年金給付についてその支給をいったん停止すべきものとした上で,

受給権者にその選択するところに従っていずれかの

年金給付について支給の停止の解除の申請をさせ,

この解除の申請に係る年金給付のみを支給することにより

併給の調整を行うという仕組みを採っている。

 

また,併給関係にある複数の年金給付が重ねて支給された場合には,

国民年金法21条1項により,支給を停止すべき年金給付について

支払われた年金を支給を停止しない年金給付の内払とみなすことにより,

支払の調整(以下「内払調整」という。)を行うものとされている。

 

(5) もっとも,併給の調整に関する実際の運用においては,

併給関係にある年金給付のすべてについて直ちに職権で

その支給を停止することをせずに,まず,受給権者に

年金受給選択申出書を提出させて支給を受けるべき年金を選択させ,

選択された年金給付については解除の申請がされたものとして

支給を停止せずにこれを支給し,選択されなかった年金給付について

支給を停止し,支給を停止すべき年金給付について誤って

年金が支払われた場合には内払調整をするものとされている。

 

なお,本件各処分当時,地方自治法施行規程

(平成11年政令第324号による改正前のもの。以下同じ。)73条1項に基づき,

社会保険及び国民年金に関する事務の一部を行うために

都道府県の機関として社会保険事務所が設置され,

地方自治法(平成11年法律第87号による改正前のもの)附則8条,

地方自治法施行規程69条2号により,

国民年金法の施行に関する事務に従事する都道府県の職員は官吏とされて,

都道府県知事の指揮監督を受けるものとされており,

裁定請求書や年金受給選択申出書の受理,審査及び

社会保険庁長官に対する進達に関する事務等は

一般に社会保険事務所において処理されていた。

 

(6) 相手方は,平成9年4月4日,

和歌山東社会保険事務所の担当者に対し,

国民年金法の老齢基礎年金の裁定請求書を提出したところ,

同担当者から,法令上障害基礎年金と退職共済年金の併給は

不可能であるにもかかわらず両年金を支給されていた旨を指摘され,

国民年金法20条2項に基づき年金受給選択の申出をするよう指導を受けた。

 

相手方は,同日,退職共済年金の内容を証する年金証書及び

年金決定通知書並びに同年金の加入期間を証する

年金加入期間確認通知書の各写しを添付の上,同担当者に対し,

年金受給選択申出書(以下「本件申出書」という。)を提出した。

 

同担当者は,相手方の意思を確認した上,本件申出書に

「支払金額の多い方に選択します」旨記載されたゴム印を押捺して

本件申出書を受理し,その記載事項の不備等を調査し,

上記の添付書類に基づきその記載内容の正確性を確認した。

 

また,和歌山県知事の相手方に対する前記(3)の裁定を受けて,

同事務所の担当者は,年金業務に関するデータを管理するため

同事務所と社会保険庁社会保険業務センターとの間に

構築されていたオンライン・システムに上記裁定に関するデータを入力した。

 

同知事は,同年5月9日,抗告人社会保険庁長官に対し,

本件申出書及びその添付書類を進達したが,その際,

特段の処分意見を付すことはしなかった。

 

(7) 社会保険業務センターの担当者は,

本件申出書及び添付書類の進達を受けた後,

本件申出書に記載された基礎年金番号や年金コードによって,

相手方に係る裁定原簿をオンライン・システムから抽出し,

同原簿に基づき,相手方への障害基礎年金の支給状況及び

老齢基礎年金の裁定の事実を確認した上,本件申出書の添付書類等によって

退職共済年金の支給状況を確認した。

 

なお,上記のとおり,本件申出書には「支払金額の多い方に選択します」旨

記載されたゴム印が押捺されていたところ,

年金受給選択申出書における年金選択の意思表示が

このようなものである場合,社会保険業務センターの担当者において,

受給権者に支給し得る年金額を計算の上,支払金額が

最も多額となる年金給付を特定するとともに,

当該年金給付の選択による過払発生の有無及びその額を確認するのが,

年金支給に係る一般的な事務取扱いであった。

 

(8) 抗告人社会保険庁長官は,相手方に対し,

平成9年9月12日付けで本件支給停止処分を,

同年10月15日付けで本件調整処分をした。

 

3 行政事件訴訟法12条が,1項において,

行政庁を被告とする取消訴訟の管轄裁判所を

その行政庁の所在地の裁判所と定めるのに加え,3項において,

当該処分又は裁決(以下「処分等」という。)に関し

「事案の処理に当たつた下級行政機関」の所在地の裁判所にも

取消訴訟の管轄を認めている趣旨は,当該下級行政機関の所在地に

管轄を認めても被告行政庁の訴訟追行上の対応に困ることはないと考えられ,

他方で原告の出訴及び訴訟追行上の便宜は大きく,また,

当該裁判所の管轄区域内に証拠資料や関係者も

多く存在するのが通常であると考えられるから証拠調べの便宜にも資し,

審理の円滑な遂行を期待することができることにあると解される。

 

このような同項の立法趣旨からすれば,

同項にいう「事案の処理に当たつた下級行政機関」とは,

当該処分等に関し事案の処理そのものに実質的に関与した

下級行政機関をいうものと解するのが相当である。

 

そして,当該処分等に関し事案の処理そのものに

実質的に関与したと評価することができるか否かは,

上記の立法趣旨にかんがみ,当該処分等の内容,性質に照らして,

当該下級行政機関の関与の具体的態様,程度,当該処分等に対する

影響の度合い等を総合考慮して決すべきである。

 

このような観点からすれば,当該下級行政機関が処分庁の依頼によって

当該処分の成立に必要な資料の収集を補助したり事案の調査の

一部を担当したりしたにすぎないような場合や,

申請書及びその添付書類を受理してその形式審査を行い,

申請人に対しその不備を指摘して

補正させたり添付書類を追完させたりした上で

これを処分庁に進達したにすぎないような場合などは,

当該下級行政機関は,原則としていまだ事案の処理そのものに

実質的に関与したと評価することはできないというべきである。

 

しかしながら,当該下級行政機関において自ら積極的に

事案の調査を行い当該処分の成立に必要な資料を収集した上

意見を付してこれを処分庁に送付ないし報告し,

これに基づいて処分庁が最終的判断を

行った上で当該処分をしたような場合はもとより,

当該下級行政機関において処分庁に対する意見具申を

していないときであっても,処分要件該当性が

一義的に明確であるような場合などは,

当該下級行政機関の関与の具体的態様,程度等によっては,

当該下級行政機関は当該処分に関し事案の処理そのものに

実質的に関与したと評価することができるものというべきである。

 

4 そこで,以下,本件において和歌山県知事が本件各処分に関し

「事案の処理に当たつた下級行政機関」に該当するか否かを判断する。

 

前記事実関係等によれば,和歌山県知事は,

本件各処分それ自体に関しては,法令上は何ら権限を有しておらず,

実際にも,相手方から本件申出書及びその添付書類の提出を受けた後は,

これを受理してその形式審査を行った上でこれを処分庁である

抗告人社会保険庁長官に進達したというにすぎず,

処分庁に対する処分意見の具申も行っていない。

 

しかしながら,他方で,同知事の補助機関である

和歌山東社会保険事務所の担当者は,相手方に対し,

法令上障害基礎年金と退職共済年金の併給は不可能である旨を指摘し,

年金受給選択の申出をするよう促して本件申出書等を提出させ,

年金受給選択に係る相手方の意思を

確認した上でこれを受理したというのである。

 

そもそも,併給関係にある年金給付のすべてについて

職権によりいったん支給を停止すべきものとした上で

受給権者に支給を受けるべき年金給付について

支給の停止の解除の申請をさせ,この申請がされた年金給付について

これを支給するという国民年金法等の仕組みは,

受給権者の選択する年金給付のみを支給することによって

併給の調整を行うという立法政策を実現するための手段として

立法技術上採用されたものである。

 

そして,併給関係にある年金給付のすべてについて

直ちに職権で支給を停止することをせずに,まず,

受給権者に年金受給選択申出書を提出させて

支給を受けるべき年金給付を選択させ,その後に,

選択された年金給付については支給を停止せずにこれを支給し,

選択されなかった年金給付について支給を停止し,

支給を停止すべき年金給付について誤って年金が支払われた場合には

内払調整をするという前記の運用は,併給の調整に関する

上記のような法の趣旨を具体化したものということができる。

このように,併給関係にある年金給付についての支給の停止,

その解除及び内払調整は,併給の調整を実現するための

不可分一体的な手続を構成しており,年金受給選択申出書の提出による

受給権者の年金受給選択の意思表示は,

このようにして行われる併給の調整にとって

不可欠の前提となるものであり,併給の調整をめぐる紛争において

重要な意味を有するものであるから,支給の停止及び内払調整の

各処分の成立にとって密接な関連を持つものということができる。

 

前記のとおり,和歌山県知事は,相手方に対し,

併給は不可能である旨を指摘し,年金受給選択の申出をするよう促して

本件申出書等を提出させ,年金受給選択に係る相手方の意思を

確認した上でこれを受理したというのであるから,同知事は,

本件申出書及びその添付書類を受理してその形式審査を行った上

これを処分庁である抗告人社会保険庁長官に進達したにとどまらず,

本件各処分の成立にとって密接な関連を持つ

年金受給選択に関する事務の処理に

積極的に関与したものということができる。

 

他方で,前記事実関係によれば,本件申出書及び

その添付書類の進達を受けた抗告人社会保険庁長官は,

相手方に係る裁定原簿及び本件申出書の添付書類等によって

相手方への障害基礎年金の支給状況,老齢基礎年金の裁定の事実及び

退職共済年金の支給状況を確認し,本件申出書によって

相手方が選択した年金給付を退職共済年金及び老齢基礎年金であると特定し,

障害基礎年金の過払の発生の事実及びその額を確認して

本件各処分に及んだというものであるが,相手方に係る上記各年金の

支給状況等の確認においては和歌山県知事から進達を受けた

本件申出書及びその添付書類にその多くを依拠しているということができ,

相手方が選択した年金給付の特定自体は

機械的な単純作業にすぎないと考えられ,また,

これらの事実関係の確認及び年金給付の特定がされれば,

本件各処分の要件該当性の判断自体は一義的に明確なものということができる。

 

以上のとおりであって,本件各処分がいずれも相手方に対する併給の

調整の手段としてされたものであること,

本件申出書及びその添付書類が受理された後の

本件各処分の成立に至るまでの上記のような

事務処理の内容,態様等にかんがみると,

和歌山東社会保険事務所における年金受給選択に関する

前記の事務の処理こそが併給の調整に係る本件事案の

処理の核心的部分に当たるということができる。

 

したがって,和歌山県知事は,抗告人社会保険庁長官の

下級行政機関として,本件各処分に関し事案の処理そのものに

実質的に関与したと評価することができるから,

行政事件訴訟法12条3項にいう

「事案の処理に当たつた下級行政機関」に

該当するというべきである。原審の判断は,

以上と同旨をいうものとして是認することができる。

論旨は採用することができない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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