行政事件訴訟法30条,道路運送法9条1項,道路運送法9条2項1号

(平成11年7月19日最高裁)

事件番号  平成7(オ)947

 

最高裁判所の見解

1 道路運送法は、タクシー事業を含む一般旅客自動車運送事業につき、

四条ないし七条において、その事業の経営についての

免許制を規定するとともに、九条一項において、

一般旅客自動車運送事業者は、運賃を定め、

又はこれを変更しようとするときは、

運輸大臣の認可を受けなければならないとし、

同条二項において、その認可基準を定めている

(なお、一般乗用旅客自動車運送事業に係る運輸大臣の右権限は、

法八八条一項一号、道路運送法施行令一条二項により、

地方運輸局長に委任されている。)。

 

そして、法九条二項一号は、

運賃の設定及び変更の認可基準の一として

前記基準を定めているが、その趣旨は、

一般旅客自動車運送事業の有する公共性ないし公益性にかんがみ、

安定した事業経営の確立を図るとともに、

利用者に対するサービスの低下を防止することを

目的としたものと解するのが相当である。

 

右のような同号の趣旨にかんがみると、

運賃の値上げを内容とする運賃変更の認可申請がされた場合において、

変更に係る運賃の額が能率的な経営の下における

適正な原価を償うことができないときは、

たとい右値上げにより一定の利潤を得ることができるとしても、

同号の基準に適合しないものと解すべきである。

 

そして、同号の基準は抽象的、概括的なものであり、

右基準に適合するか否かは、

行政庁の専門技術的な知識経験と公益上の判断を必要とし、

ある程度の裁量的要素があることを否定することはできない。

 

2 ところで、本件申請がされた当時、

タクシー事業の運賃変更の認可について、

「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃改定要否の検討基準及び

運賃原価算定基準について」(昭和四八年七月二六日付け

自旅第二七三号自動車局長から各陸運局長あて依命通達。

以下「本件通達」という。)が定められており、

各地方運輸局においては、本件通達に定められた方式に従った

事務処理が行われていた。

 

その概要は、地方運輸局長は、

同一運賃を適用する事業区域を定め、

当該区域の事業者の中から不適当な者を除外して

標準能率事業者を選定し、さらに、標準能率事業者の中から

その実績加重平均収支率が標準能率事業者の

それを下回らないように原価計算対象事業者を選定し、

右事業者について本件通達別紙(2)の

「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃原価算定基準」

(以下「運賃原価算定基準」という。)に従って

適正利潤を含む運賃原価を人件費等の原価要素の分類に従って算定した上、

その平均値を基に運賃の値上げ率を算定する

(この算定方式を「平均原価方式」という。)、

というものである。

 

本件通達の定める運賃原価算定基準に示された原価計算の方法は、

法九条二項一号の基準に適合するか否かの

具体的判断基準として合理性を有するといえる。

 

そして、タクシー事業は運賃原価を構成する要素が

ほぼ共通と考えられる上、その中でも人件費が

原価の相当部分を占めるものであり、

また、同じ地域では賃金水準や一般物価水準といった

経済情勢はほぼ同じであると考えられるから、

当該同一地域内では、同号にいう

「能率的な経営の下における適正な原価」は各事業者にとって

ほぼ同じようなものになると考えられる。

 

したがって、平均原価方式に従って算定された額をもって

当該同一地域内のタクシー事業者に対する運賃の設定又は

変更の認可の基準とし、右の額を変更後の運賃の額とする

運賃変更の認可申請については、

特段の事情のない限り同号の基準に適合しているものと判断することも、

地方運輸局長の前記裁量権の行使として是認し得るところである。

 

もっとも、タクシー事業者が平均原価方式により

算定された額と異なる運賃額を内容とする運賃の設定又は

変更の認可申請をし、右運賃額が同号の基準に適合することを

明らかにするため道路運送法施行規則

(平成七年運輸省令第一四号による改正前のもの)一〇条二項所定の

原価計算書その他運賃の額の算出の基礎を記載した書類を提出した場合には、

地方運輸局長は、当該申請について

法九条二項一号の基準に適合しているか否かを

右提出書類に基づいて個別に審査判断すべきであることはいうまでもない。

 

3 前記事実関係等によれば、被上告人らの本件申請に係る運賃の額は、

本件申請の直前に近畿運輸局長が同業他社に対してした認可に係る

運賃の額(右運賃の額は本件通達の定める

平均原価方式に従って算定されたものと推認される。)を

下回るものであったが、同局長は、

本件申請に係る運賃の額が右認可に係る運賃の額に

達しないものであることのみを理由として

直ちに本件却下決定をしたのではなく、

本件申請に対する許否の判断に当たり、

被上告人らの提出する原価計算書その他の書類に基づき、

本件申請に係る運賃の変更が法九条二項一号の基準に適合するか否かを

運賃原価算定基準に準拠して個別に審査しようとしたものと解される。

 

前示のとおり、運賃原価算定基準に示された原価計算の方法は、

同号の基準に適合するか否かの具体的判断基準として、

合理性を有するものであるから、

同局長において本件申請に係る運賃の変更が同号の

基準に適合するか否かを運賃原価算定基準に準拠して

個別に審査しようとしたことは、

相当な措置であったというべきである。

 

しかるに、前記事実関係等によれば、

同局長が右審査のために被上告人らに対して

右原価計算書に記載された原価計算の算定根拠等について

説明を求めたにもかかわらず、

被上告人らは、運賃変更の理由は

消費税の転嫁である旨の陳述をしたのみで、

右原価計算の算定根拠等を明らかにしなかったというのであるから、

同局長において被上告人らの提出した書類によっては

被上告人らの採用した原価計算の合理性について

審査判断することができなかったものということができる。

 

そうであるとすれば、本件申請について、

同号の基準に適合するか否かを判断するに

足りるだけの資料の提出がないとして、

本件却下決定をした同局長の判断に、その裁量権を逸脱し、

又はこれを濫用した違法はないというべきである。

 

以上によれば、原審の前記判断には、

法令の解釈適用を誤った違法があり、

右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。

 

論旨は理由があり、原判決は、

その余の点について判断するまでもなく、

破棄を免れない。

 

そして、前示のとおり、被上告人らの本件損害賠償請求は、

本件却下決定が違法であり、近畿運輸局長は

本件申請を認可すべきであったことを前提とするものであるから、

右請求はいずれも理由がないことに帰する。

 

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