言語の著作物の翻案の意義

(平成13年6月28日最高裁)

事件番号  平成11(受)922

 

最高裁判所の見解

(1) 言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,

既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の

同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,

新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,

これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を

直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。

 

そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な

表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),

既存の著作物に依拠して創作された著作物が,

思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは

事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,

既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,

翻案には当たらないと解するのが相当である。

 

(2) これを本件についてみると,

本件プロローグと本件ナレーションとは,

江差町がかつてニシン漁で栄え,そのにぎわいが

「江戸にもない」といわれた豊かな町であったこと,

現在ではニシンが去ってその面影はないこと,

江差町では9月に江差追分全国大会が開かれ,

年に1度,かつてのにぎわいを取り戻し,

町は一気に活気づくことを表現している点及び

その表現の順序において共通し,同一性がある。

 

しかし,本件ナレーションが本件プロローグと同一性を有する部分のうち,

江差町がかつてニシン漁で栄え,そのにぎわいが

「江戸にもない」といわれた豊かな町であったこと,

現在ではニシンが去ってその面影はないことは,一般的知見に属し,

江差町の紹介としてありふれた事実であって,

表現それ自体ではない部分において同一性が認められるにすぎない。

 

また,現在の江差町が最もにぎわうのが

江差追分全国大会の時であるとすることが

江差町民の一般的な考え方とは異なるもので

被上告人に特有の認識ないしアイデアであるとしても,

その認識自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず,

これと同じ認識を表明することが著作権法上禁止されるいわれはなく,

本件ナレーションにおいて,上告人らが被上告人の認識と同じ認識の上に立って,

江差町では9月に江差追分全国大会が開かれ,年に1度,

かつてのにぎわいを取り戻し,町は一気に活気づくと表現したことにより,

本件プロローグと表現それ自体でない部分において

同一性が認められることになったにすぎず,

具体的な表現においても両者は異なったものとなっている。

 

さらに,本件ナレーションの運び方は,

本件プロローグの骨格を成す事項の記述順序と同一ではあるが,

その記述順序自体は独創的なものとはいい難く,

表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。

 

しかも,上記各部分から構成される本件ナレーション全体をみても,

その量は本件プロローグに比べて格段に短く,

上告人らが創作した影像を背景として放送されたのであるから,

これに接する者が本件プロローグの表現上の

本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。

 

したがって,本件ナレーションは,本件著作物に依拠して

創作されたものであるが,本件プロローグと同一性を有する部分は,

表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分であって,

本件ナレーションの表現から本件プロローグの表現上の

本質的な特徴を直接感得することはできないから,

本件プロローグを翻案したものとはいえない。

 

以上説示したところによれば,本件番組の製作及び放送は,

被上告人の本件著作物についての翻案権,放送権及び

氏名表示権を侵害するものとはいえないから,

被上告人の本件損害賠償請求は,いずれも棄却するべきである。

 

これと異なる見解に立って,被上告人の本件請求の

一部を認容すべきものとした原審及び第1審の判断には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

論旨は,この趣旨をいうものとして理由がある。

したがって,原判決中上告人ら敗訴部分を破棄し,

同部分につき第1審判決を取り消し,

被上告人の請求をいずれも棄却することとする。

 

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