設置管理者の損害賠償責任

(平成5年3月30日最高裁)

事件番号  昭和61(オ)315

 

最高裁判所の見解

1 国家賠償法二条一項にいう

「公の営造物の設置又は管理に瑕疵」があるとは、

公の営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、

右の安全性を欠くか否かの判断は、

当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び

利用状況等諸般の事情を総合考慮して

具体的、個別的に判断すべきである

(最高裁昭和四二年(オ)第九二一号同四五年八月二〇日第一小法廷判決・

民集二四巻九号一二六八頁、最高裁昭和五三年(オ)七六号

同年七月四日第三小法廷判決・民集三二巻五号八〇九頁参照)。

 

本件において、その設置又は管理に瑕疵があったと主張されている

当該営造物とは、具体的には、

上告人(栃木県芳賀郡a町)町立のG中学校の校庭に

設置されたテニスの審判台であるが、一般に、

テニスの審判台は、審判者がコート面より

高い位置から競技を見守るための設備であり、

座席への昇り降りには、そのために設けられた

階段によるべきことはいうまでもなく、

審判台の通常有すべき安全性の有無は、

この本来の用法に従った使用を前提とした上で、

何らかの危険発生の可能性があるか否かによって

決せられるべきものといわなければならない。

 

本件審判台が本来の用法に従ってこれを使用する限り

転倒の危険を有する構造のものでなかったことは、

原審の適法に確定するところであり、

G中学校の校庭において生徒らがこれを使用し、

二〇年余の間全く事故がなかったことは、

原審の右判断を裏付けて余りあるものというべきであろう。

 

そして、本件審判台が右のように安全性に欠けるものでない以上、

他種の審判台と比較して安全性が劣っているとか、

これを地面に固定すべきであるとか、

競技や練習終了後にはその都度片付けて置くべきであるとかいうのは、

実情にそぐわない非難というほかはない。

 

2 本件事故の発生したG中学校の校庭が幼児を含む

一般市民に事実上開放されていたことは、

前述のとおりであるが、このように、

公立学校の校庭が開放されて一般の利用に供されている場合、

幼児を含む一般市民の校庭内における安全につき、

校庭内の設備等の設置管理者に全面的に責任があるとするのは

当を得ないことであり、幼児がいかなる行動に出ても

不測の結果が生じないようにせよというのは、

設置管理者に不能を強いるものといわなければならず、

これを余りに強調するとすれば、

かえって校庭は一般市民に対して全く閉ざされ、

都会地においては幼児は危険な路上で遊ぶことを

余儀なくされる結果ともなろう。

 

公の営造物の設置管理者は、本件の例についていえば、

審判台が本来の用法に従って安全であるべきことについて

責任を負うのは当然として、その責任は原則として

これをもって限度とすべく、本来の用法に

従えば安全である営造物について、

これを設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で

使用しないという注意義務は、

利用者である一般市民の側が負うのが当然であり、

幼児について、異常な行動に出ることがないようにさせる注意義務は、

もとより、第一次的にその保護者にあるといわなければならない。

 

3 以上説示するところによって本件をみるのに、

本件事故時のFの行動は、本件審判台に前部階段から昇った後、

その座席部分の背当てを構成している左右の

鉄パイプを両手で握って審判台の後部から降りるという

極めて異常なもので、本件審判台の本来の用法と異なることはもちろん、

設置管理者の通常予測し得ないものであったといわなければならない。

 

そして、このような使用をすれば、

本来その安全性に欠けるところのない設備であっても、

何らかの危険を生ずることは避け難いところである。

 

幼児が異常な行動に出ることのないようにしつけるのは、

保護者の側の義務であり、このような通常予測し得ない

異常な行動の結果生じた事故につき、

保護者から設置管理者に対して責任を問うというのは、

もとより相当でない。

 

まして本件に現れた付随的事情からすれば、Fは、

保護者である被上告人Bらに同伴されていたのであるから、

同被上告人らは、テニスの競技中にもFの動静に留意して

危険な行動に出ることがないように看守し、

万一その危険が察知されたときは直ちに制止するのが当然であり、

また容易にこれを制止し得たことも明らかである。

 

4 これを要するに、本件事故は、被上告人らの主張と異なり、

本件審判台の安全性の欠如に起因するものではなく、かえって、

前記に見るようなFの異常な行動に原因があったものといわなければならず、

このような場合にまで、上告人が被上告人らに対して

国家賠償法二条一項所定の責任を負ういわれはないというべきである。

 

四 以上と異なる原審の判断には、

国家賠償法二条一項の解釈適用を誤った違法があり、

右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

 

論旨は理由があり、原判決中、

上告人敗訴の部分は破棄を免れず、

右部分につき第一審判決を取り消し、

被上告人らの請求を棄却すべきである。

 

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