訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは

( 平成21年10月23日最高裁)

事件番号  平成20(受)1427

 

この裁判は、

特別養護老人ホームの入所者に対して虐待行為が行われている旨の

新聞記事が同施設の職員からの情報提供等を端緒として掲載されたことにつき,

同施設を設置経営する法人が,複数の目撃供述等が存在していたにもかかわらず,

虐待行為はなく上記の情報は虚偽であるとして同職員に対してした

損害賠償請求訴訟の提起が,違法な行為とはいえないとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

(1) 法的紛争の当事者が当該紛争の

終局的解決を裁判所に求め得ることは,

法治国家の根幹にかかわる重要な事柄であるから,

訴えの提起が不法行為を構成するか否かを判断するに当たっては,

いやしくも裁判制度の利用を不当に制限する結果とならないよう

慎重な配慮が必要とされる。

 

このような観点からすると,法的紛争の当事者が

紛争の解決を求めて訴えを提起することは,

原則として正当な行為であり,

訴えの提起が相手方に対する違法な行為といえるのは,

当該訴訟において提訴者の主張した権利又は

法律関係が事実的,法律的根拠を欠くものである上,

提訴者がそのことを知りながら又は

通常人であれば容易にそのことを

知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど,

訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく

相当性を欠くと認められるときに限られるものと解するのが相当である

(最高裁昭和60年(オ)第122号同63年1月26日

第三小法廷判決・民集42巻1号1頁,

最高裁平成7年(オ)第160号同11年4月22日第一小法廷判決・

裁判集民事193号85頁参照)。

 

報道により信用又は名誉が損なわれたとして救済を求める場合,

訴えの提起は,紛争解決のための数少ない手段の一つであるから,

報道の自由等に配慮する必要があることは当然としても,

訴えの提起が不法行為を構成するか否かを判断するに当たっては,

上記のとおり,慎重な配慮をもって臨むべきである。

 

(2) これを本件についてみるに,前記事実関係によれば,

Bの入所者に対する暴行については

複数の投書や目撃供述が存在していたものの,

A施設長は,簡略なものとはいえBから虐待の事実を

全面的に否定する供述を得,被上告人Y 同席の下で,

Bに事実の有無を確認するなどしたが,その供述は

一貫してこれを否認するものであったほか,

A施設長は,被上告人Y のBが行った暴行の目撃状況についての

報告内容自体にも矛盾する箇所があるように感じており,

本件施設の入所者の身体に暴行のこん跡があったとの確たる記録もなく,

後に公表された札幌市の調査結果においても,

個別の虐待事例については証拠等により

特定するには至らなかったというのである。

 

そうすると,上告人が,特段の根拠もないまま入所者に対する

虐待がなかったものと思い込んだということはできず,

その主張する権利又は法律関係が事実的,法律的根拠を

欠くものであることを知りながら又は通常人であれば

容易にそのことを知り得たのにあえて本訴を提起したとまでは

認められないというべきである。

 

なお,前記事実関係によれば,本訴の提起は,

被上告人らに対する計画的な嫌がらせ行為として

組織的に行われたものともいえない。

 

以上によれば,本訴の提起は,

いまだ裁判制度の趣旨目的に照らして

著しく相当性を欠くものとはいえず,

被上告人らに対する違法な行為とはいえないというべきである。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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