訴状の有効な送達のないままされた判決が確定した場合と民訴法420条1項3号の再審事由
(平成4年9月10日最高裁)
事件番号 平成3(オ)589
最高裁判所の見解
1 民訴法一七一条一項に規定する
「事理ヲ弁識スルニ足ルヘキ知能ヲ具フル者」とは、
送達の趣旨を理解して交付を受けた書類を受送達者に
交付することを期待することができる程度の能力を有する者を
いうものと解されるから、原審が、前記二1のとおり、
当時七歳九月の女子であった上告人の四女は右能力を備える者とは
認められないとしたことは正当というべきである。
2 そして、有効に訴状の送達がされず、
その故に被告とされた者が訴訟に関与する機会が
与えられないまま判決がされた場合には、
当事者の代理人として訴訟行為をした者に
代理権の欠缺があった場合と別異に扱う理由はないから、
民訴法四二〇条一項三号の事由があるものと解するのが相当である。
3 また、民訴法四二〇条一項ただし書は、
再審事由を知って上訴をしなかった場合には
再審の訴えを提起することが許されない旨規定するが、
再審事由を現実に了知することができなかった場合は
同項ただし書に当たらないものと解すべきである。
けだし、同項ただし書の趣旨は、再審の訴えが
上訴をすることができなくなった後の
非常の不服申立方法であることから、
上訴が可能であったにもかかわらずそれをしなかった者について
再審の訴えによる不服申立てを否定するものであるからである。
これを本件についてみるのに、前訴の判決は、
その正本が有効に送達されて確定したものであるが、
上告人は、前訴の訴状が有効に送達されず、
その故に前訴に関与する機会を与えられなかったとの
前記再審事由を現実に了知することができなかったのであるから、
右判決に対して控訴しなかったことをもって、
同項ただし書に規定する場合に当たるとすることは
できないものというべきである。
4 そうすると、上告人に対して
前訴の判決正本が有効に送達されたことのみを理由に、
上告人が控訴による不服申立てを怠ったものとして、
本件再審請求を排斥した原審の判断には、
民訴法四二〇条一項ただし書の解釈適用を誤った違法があり、
右違法が判決に影響することは明らかであるから、
論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
そして、本件においては、なお前訴の請求の当否について
審理する必要があるので、これを原審に差し戻すこととする。
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