診療契約に付随する義務に違反するとされた事例

(平成14年9月24日最高裁)

事件番号  平成10(オ)1046

 

この裁判は、

医師が末期がんの患者の家族に病状等を

告知しなかったことが診療契約に付随する義務に違反するとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

事実関係によれば,F医師は,初めてDを診察した

平成2年11月17日に同人が治癒・延命可能性のない

末期がんであると判断し,余命は長くて1年程度であると予測し,

その後の診察でその旨を確認したが,

D本人にがんである旨を告知すべきでないと判断したことから,

同人にがんであることを察知されないようにしながら

家族へ病状の説明をすべきであると考え,1人で通院していたDに対し,

診察に家族を同伴するように1度勧め,また,

Dに対し,内視鏡検査のためとして入院を1度勧めたものの,

同人が病身の妻と2人暮らしであることを理由に入院を拒んだことから,

それ以上に,家族の同伴を再度強く勧めたり,

自ら又は非常勤である自らに代わる本件病院の適当な補助者を通じて,

Dの家族への連絡を試みるなどして,

Dの家族と接触しようと努めることもなく,

F医師によるDの最後の診察となった

同3年1月19日の時点まで漫然と時日を経過させた上,

その後も,同人の家族に末期がんである旨の

説明をしようと試みなかったものである。

 

さらに,F医師が本件病院における診察の担当から外れた後の

同年2月9日及び同年3月2日にDを診察した本件病院の他の医師らも,

F医師がDのカルテに転移病変につき患者の家族に何らかの説明が

必要である旨の記載をしていたにもかかわらず,

その診察時以降もなお,Dの家族への連絡を試みることもなく,

Dの家族に末期がんあるいは末期的疾患である旨の

説明をしようとしなかったものである。

 

ところで,医師は,診療契約上の義務として,

患者に対し診断結果,治療方針等の説明義務を負担する。

 

そして,患者が末期的疾患にり患し余命が限られている旨の診断をした

医師が患者本人にはその旨を告知すべきではないと判断した場合には,

患者本人やその家族にとってのその診断結果の重大性に照らすと,

当該医師は,診療契約に付随する義務として,少なくとも,

患者の家族等のうち連絡が容易な者に対しては接触し,

同人又は同人を介して更に接触できた家族等に対する告知の適否を検討し,

告知が適当であると判断できたときには,

その診断結果等を説明すべき義務を負うものといわなければならない。

 

なぜならば,このようにして告知を受けた家族等の側では,

医師側の治療方針を理解した上で,物心両面において患者の治療を支え,

また,患者の余命がより安らかで充実したものとなるように

家族等としてのできる限りの手厚い配慮をすることができることになり,

適時の告知によって行われるであろうこのような家族等の協力と配慮は,

患者本人にとって法的保護に値する

利益であるというべきであるからである。

 

これを本件についてみるに,Dの診察をしたF医師は,

前記のとおり,一応はDの家族との接触を図るため,

Dに対し,入院を1度勧め,家族を同伴しての来診を1度勧め,

あるいはカルテに患者の家族に対する説明が

必要である旨を記載したものの,

カルテにおけるDの家族関係の記載を確認することや診察時に

定期的に持参される保険証の内容を本件病院の受付担当者に

確認させることなどによって判明する

Dの家族に容易に連絡を取ることができたにもかかわらず,

その旨の措置を講ずることなどもせず,また,

本件病院の他の医師らは,F医師の残したカルテの記載にもかかわらず,

Dの家族等に対する告知の適否を検討するために

Dの家族らに連絡を取るなどして接触しようとはしなかったものである。

 

このようにして,本件病院の医師らは,

Dの家族等と連絡を取らず,

Dの家族等への告知の適否を検討しなかったものであるところ,

被上告人B2及び同B4については告知を受けることにつき

格別障害となるべき事情はなかったものであるから,

本件病院の医師らは,連絡の容易な家族として,

又は連絡の容易な家族を介して,少なくとも同被上告人らと接触し,

同被上告人らに対する告知の適否を検討すれば,

同被上告人らが告知に適する者であることが判断でき,

同被上告人らに対してDの病状等について

告知することができたものということができる。

 

そうすると,本件病院の医師らの上記のような対応は,

余命が限られていると診断された末期がんにり患している患者に

対するものとして不十分なものであり,同医師らには,

患者の家族等と連絡を取るなどして接触を図り,

告知するに適した家族等に対して患者の病状等を

告知すべき義務の違反があったといわざるを得ない。

 

その結果,被上告人らは,平成3年3月19日に

E大学医学部附属病院における告知がされるまでの間,

Dが末期がんにり患していることを知り得なかったために,

Dがその希望に沿った生活を送れるようにし,また,

被上告人らがより多くの時間をDと過ごすなど,

同人の余命がより充実したものとなるようにできる限りの

手厚い配慮をすることができなかったものであり,

Dは,上告人に対して慰謝料請求権を有するものということができる。

 

被上告人らの請求を一部認容した原審の判断は,

以上と同旨をいうものとして是認することができる。

 

論旨は,原審の専権に属する証拠の取捨判断,

事実の認定を非難するか,又は独自の見解に立って

原判決を論難するものにすぎず,採用することができない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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