証券取引における適合性原則違反と不法行為の成否

(平成17年7月14日最高裁)

事件番号  平成15(受)1284

 

最高裁判所の見解

(1) 平成10年法律第107号による改正前の証券取引法54条1項1号,

2号及び証券会社の健全性の準則等に

関する省令(昭和40年大蔵省令第60号)8条5号は,

業務停止命令等の行政処分の前提要件としてではあるが,

証券会社が,顧客の知識,経験及び財産の状況に照らして

不適当と認められる勧誘を行って

投資者の保護に欠けることとならないように

業務を営まなければならないとの趣旨を規定し,

もって適合性の原則を定める(現行法の43条1号参照)。

 

また,平成4年法律第73号による改正前の

証券取引法の施行されていた当時にあっては,

適合性の原則を定める明文の規定はなかったものの,

大蔵省証券局長通達や証券業協会の公正慣習規則等において,

これと同趣旨の原則が要請されていたところである。

 

これらは,直接には,公法上の業務規制,行政指導又は

自主規制機関の定める自主規制という位置付けのものではあるが,

証券会社の担当者が,顧客の意向と実情に反して,

明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,

適合性の原則から著しく逸脱した証券取引の

勧誘をしてこれを行わせたときは,

当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である。

 

そして,証券会社の担当者によるオプションの

売り取引の勧誘が適合性の原則から著しく逸脱していることを理由とする

不法行するものである。

 

すなわち,日経平均株価オプション取引は,その上場に当たり,

大蔵大臣の承認(平成9年法律第102号による

改正前の証券取引法110条)を通じて,

投資者保護等の観点からの商品性についての審査を経たものであり,

また,基礎商品となる日経平均株価やオプション料の値動き等は,

経済紙はもとより一般の日刊紙にも掲載され,

一般投資家にも情報提供されているなど,投資者の保護のための

一定の制度的保障と情報環境が整備されているところである。

 

さらに,平成10年法律第107号による改正前の

証券取引法47条の2(現行法の40条1項参照)は,

有価証券オプション取引など,一般投資家の保護の観点から

特に当該取引のリスクについて注意を喚起することが

相当と考えられる類型の取引に関し,証券会社は,

いわゆる機関投資家等を除く顧客に対し,

契約締結前に損失の危険に関する事項等を記載した

説明書をあらかじめ交付しなければならない旨を定めるが,

この規定は,専門的な知識及び経験を有するとはいえない

一般投資家であっても,有価証券オプション取引等の適合性がないものとして

一律に取引市場から排除するのではなく,

当該取引の危険性等について十分な説明を要請することで,

自己責任を問い得る条件を付与して取引市場に

参入させようとする考え方に基づくものと解される。

 

そうすると,日経平均株価オプションの売り取引は,

単にオプションの売り取引という類型としてみれば,

一般的抽象的には高いリスクを伴うものであるが,

そのことのみから,当然に一般投資家の適合性を

否定すべきものであるとはいえないというべきである。

 

(3)日経平均株価オプション取引の

以上のような商品特性を踏まえつつ,被上告人の側の投資経験,

証券取引の知識,投資意向,財産状態等をみるに,

原審の確定した前記の事実関係によれば,被上告人は,

返済を要するものとはいえ,20億円以上の資金を有し,

その相当部分を積極的に投資運用する方針を有していたこと,

このため,代表取締役社長自ら資金運用に関与するほか,

資金運用を担当する専務取締役において

資金運用業務を管理する態勢を備えていたこと,

同専務取締役は,それ以前において資金運用又は

証券取引の経験はなかったものの,昭和59年9月に

本件取引に係る証券取引を開始してから,

初めてオプション取引を行った平成元年8月までの5年間に,

株式の現物取引,信用取引,国債先物取引,

外貨建てワラント取引,株券先物取引等を,毎年数百億円規模で行い,

証券取引に関する経験と知識を蓄積していたこと,

オプション取引を行うようになってからも,

1回目及び2回目のオプション取引では,

専らコール・オプションの買い取引のみを,

数量的にも限定的に行い,その結果としての

利益の計上と損失の負担を実際に経験していること,

こうした経験も踏まえ,平成3年2月に初めてオプションの

売り取引(3回目のオプション取引)を始めたが,

その際,オプション取引の損失が1000万円を超えたら

これをやめるという方針を自ら立て,実際,損失が

1000万円を超えた平成4年4月には,

自らの判断によりこれを終了させるなどして,

自律的なリスク管理を行っていること,その後,

平成4年12月に再び売り取引を中心とする

オプション取引(4回目のオプション取引)を始めたが,

大きな損失の原因となった期末にオプションを大量に売り建てるという手法は,

決算対策を意図する被上告人の側の事情により

行われたものであること等が明らかである。

 

これらの事情を総合すれば,被上告人が,

およそオプションの売り取引を自己責任で行う適性を欠き,

取引市場から排除されるべき者であったとはいえないというべきである。

 

そうすると,D證券の担当者(N及びO)において,

被上告人にオプションの売り取引を勧誘して

3回目及び4回目のオプション取引を行わせた行為が,

適合性の原則から著しく逸脱するものであったということはできず,

この点について上告人の不法行為責任を認めることはできない。

 

これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが

明らかな法令の違反があるというべきである。

 

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