譲渡担保権設定者の受戻権放棄による清算金支払請求の可否
(平成8年11月22日最高裁)
事件番号 平成6(オ)1532
最高裁判所の見解
譲渡担保権設定者は、譲渡担保権者が清算金の支払又は提供をせず、
清算金がない旨の通知もしない間に譲渡担保の
目的物の受戻権を放棄しても、譲渡担保権者に対して
清算金の支払を請求することはできないものと解すべきである。
けだし、譲渡担保権設定者の清算金支払請求権は、
譲渡担保権者が譲渡担保権の実行として目的物を
自己に帰属させ又は換価処分する場合において、
その価額から被担保債権額を控除した残額の支払を請求する権利であり、
他方、譲渡担保権設定者の受戻権は、譲渡担保権者において
譲渡担保権の実行を完結するまでの間に、弁済等によって
被担保債務を消滅させることにより譲渡担保の目的物の
所有権等を回復する権利であって、
両者はその発生原因を異にする別個の権利であるから、
譲渡担保権設定者において受戻権を放棄したとしても、
その効果は受戻権が放棄されたという状況を現出するにとどまり、
右受戻権の放棄により譲渡担保権設定者が
清算金支払請求権を取得することとなると解することはできないからである。
また、このように解さないと、譲渡担保権設定者が、
受戻権を放棄することにより、本来譲渡担保権者が有している
譲渡担保権の実行の時期を自ら決定する自由を制約し得ることとなり、
相当でないことは明らかである。
四 そうすると、右と異なる原審の判断には、
法令の解釈適用を誤った違法があり、
右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
そして、以上に判示したところによれば、
被上告人の本件請求は理由がないから、
右請求を認容した第一審判決を取り消し、
これを棄却すべきものである。
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