譴責処分無効確認等請求事件

(平成12年3月31日最高裁)

事件番号  平成8(オ)1026

 

最高裁判所の見解

1 前記事実関係によれば、本件訓練は、

上告人の事業遂行に必要なディジタル交換機の

保守技術者の養成と能力向上を図るため、

各職場の代表を参加させて、一箇月に満たない

比較的短期間に集中的に高度な知識、技能を修得させ、

これを所属の職場に持ち帰らせることによって、

各職場全体の業務の改善、向上に資することを目的として

行われたものということができる。

 

このような期間、目的の訓練においては、特段の事情のない限り、

訓練参加者が訓練を一部でも欠席することは、

予定された知識、技能の修得に不足を生じさせ、

訓練の目的を十全に達成することができない結果を

招くものというべきである。

 

したがって、このような訓練の期間中に年休が請求されたときは、

使用者は、当該請求に係る年休の期間における具体的な訓練の内容が、

これを欠席しても予定された知識、技能の修得に不足を

生じさせないものであると認められない限り、

年休取得が事業の正常な運営を妨げるものとして

時季変更権を行使することができると解される。

 

被上告人は、本件訓練において修得することが不可欠とされ、

そのため従前の講義時間が二倍に増やされていた

共通線に関する講義六時限のうち最初の四時限が

行われる日について年休を請求したというのであるから、

当日の講義を欠席することは、本件訓練において

予定された知識、技能の修得に不足を生じさせるおそれが

高いものといわなければならない。

 

しかも、被上告人は、交換課の平成元年度における

唯一の代表として保全科ディジタル交換機応用班の訓練に

参加していたのであるから、被上告人の右修得不足は、

ひいては、交換課全体の業務の改善、向上に悪影響を

及ぼすことにつながるものということができる。

 

2 原審は、右講義には教科書があるから自習が可能であること、

被上告人の所属していた職場である交換課は

共通線信号処理装置にかかわる業務を担当していたことなどを根拠に、

被上告人の努力により欠席した四時限の講義内容を補うことが

十分可能であるなどとして、右欠席が本件訓練の

目的達成を困難にするとはいえないと判断している。

 

しかしながら、通常は、教科書に基づいて自習することをもって

四時限の講義によるのと同程度の知識、技能の修得が

可能であるとは解されず(参加者に教科書等に基づく

自習による場合よりも高い程度の知識、技能を修得させるために、

本件訓練のような形態の研修が行われるものというべきである。)、

六時限の講義のうち最初の四時限を欠席した者が残る

二時限の講義を受講することで不足を補うことも困難である。

 

のみならず、そもそも、被上告人が自習をすることは

被上告人自身の意思に懸かっており、上告人は、

時季変更権を行使するか否かを決定するに際して、

右自習がされることを前提とすることができないから、

自習がされない場合における事業の運営への影響を

考慮することが許されるものというべきである。

 

また、交換課の右の担当業務や被上告人の前記職歴から、

被上告人が右講義において修得することが予定されていた

知識、技能をあらかじめ有していたと即断することはできない。

 

被上告人が本件訓練をおおむね普通以上の評価をもって終了したことも、

時季変更権行使の時点では上告人の予見し得ない事情にすぎない上、

右講義において予定されていた知識、技能の修得に

不足を生じなかったことを直ちに

裏付けるに足りる事情ということもできない。

 

集合訓練中の年休取得の事例や年休の取扱いに関する原判示の事実も、

本件における年休の取得が本件訓練の目的達成を困難にすると

判断することを妨げるものとはいえない。

 

3 以上によれば、前記事実関係に基づいて

本件の年休の取得が上告人の事業の

正常な運営を妨げるものとはいえないとした原審の前記判断は、

法令の解釈適用を誤ったものというべきであり、

右の違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかである。

 

この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

そして、被上告人が欠席した講義において

修得することが予定されていた知識、技能を

あらかじめ有していたと認められるか否かなどの点について

更に審理した上で、上告人の時季変更権行使の要件の有無について

判断を尽くす必要がある。

 

また、これがあると判断される場合には、

右時季変更権の行使が不当労働行為に当たるか否か、

さらには、被上告人の本件訓練の欠席が

無断欠勤といわざるを得ないとしても、

これを理由に定期昇給に係る不利益を伴うけん責処分を行うことが

懲戒権の濫用に当たらないか否かなどについても、

審理判断させる必要がある。

 

したがって、本件を原審に差し戻すのが相当である。

 

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