賃料増額請求権の行使と一定期間経過の要否
( 平成3年11月29日最高裁)
事件番号 平成3(オ)269
最高裁判所の見解
建物の賃貸人が借家法七条一項の規定に基づいてした
賃料の増額請求が認められるには、
建物の賃料が土地又は建物に対する公租公課その他の負担の増減、
土地又は建物の価格の高低、比隣の建物の賃料に比較して
不相当となれば足りるものであって、
現行の賃料が定められた時から一定の期間を経過しているか否かは、
賃料が不相当となったか否かを判断する一つの事情にすぎない。
したがって、現行の賃料が定められた時から
一定の期間を経過していないことを理由として、
その間に賃料が不相当となっているにもかかわらず、
賃料の増額請求を否定することは、
同条の趣旨に反するものといわなければならない。
2 これを本件についてみると、原審は、
本件増額請求に係る昭和六三年五月二〇日の時点における賃料は
五三万四七〇〇円が相当であると認めながら、
現行の賃料が定められた昭和六一年一〇月一日から
右の時点まで二年を経過していないことのみを理由に、
被上告人の右の時点における賃料の増額請求を否定しているものであって、
右の判断には借家法七条一項の
解釈適用を誤った違法があるといわなければならない。
なお、原審は、被上告人が本件訴訟を追行していることによって
被上告人の賃料増額の意思表示が維持されている、と判断して、
昭和六一年一〇月一日から二年を経過した
昭和六三年一〇月一日の時点で賃料増額請求の効力を生じたことを理由に、
被上告人の請求を前記のとおり一部認容しているのであるが、
右の判断を是認し得ないことは
当裁判所の判例の趣旨に徴して明らかである
(最高裁昭和四三年(オ)第一二七〇号
同四四年四月一五日第三小法廷判決・
裁判集民事九五号九七頁、最高裁昭和五〇年(オ)一〇四二号
同五二年二月二二日第三小法廷判決・裁判集民事一二〇号一〇七頁参照)。
3 そうすると、被上告人の請求は、昭和六三年五月二〇日以降の
本件建物の賃料が五三万四七〇〇円であることの
確認を求める限度で認容すべきところ、被上告人から
上告がない本件において、右と異なる原判決を上告人に
不利益に変更することは許されない。
論旨は、結局、原判決の結論に影響しない
部分の違法をいうに帰し、採用することができない。
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