車両保険金の支払を請求する場合の主張立証責任

(平成19年4月23日最高裁)

事件番号  平成17(受)1841

 

この裁判では、

「衝突,接触…その他偶然な事故」及び「被保険自動車の盗難」を

保険事故として規定している一般自動車総合保険約款に基づき

上記盗難に当たる保険事故が発生したとして

車両保険金の支払を請求する場合における事故の

偶発性についての主張立証責任について

裁判所が見解を示しました。

 

最高裁判所の見解

(1) 商法629条が損害保険契約の保険事故として規定する

「偶然ナル一定ノ事故」とは,保険契約成立時において

発生するかどうかが不確定な事故をいうものと解される。

 

また,同法641条が,保険契約者又は被保険者の悪意又は

重過失によって生じた損害について保険者は

てん補責任を負わない旨規定しているのは,

保険契約者又は被保険者が故意又は重過失によって

保険事故を発生させたことを保険金請求権の発生を妨げる免責事由として

規定したものと解される。

 

本件条項は,「衝突,接触,墜落,転覆,物の飛来,

物の落下,火災,爆発,台風,こう水,高潮その他偶然な事故」及び

「被保険自動車の盗難」を保険事故として規定しているが,

これは,保険契約成立時に発生するかどうかが不確定な事故を

「被保険自動車の盗難」も含めてすべて保険事故とすることを

明らかにしたもので,商法629条にいう

「偶然ナル一定ノ事故」を本件保険契約に即して規定したものというべきである。

本件条項にいう保険事故を,商法の上記規定にいう

「偶然ナル」事故とは異なり,保険事故の発生時において

被保険者の意思に基づかない事故であること(保険事故の偶発性)を

いうものと解することはできない

(最高裁平成17年(受)第1206号同18年6月1日

第一小法廷判決・民集60巻5号1887頁,

最高裁平成17年(受)第2058号同18年6月6日第三小法廷判決・

裁判集民事220号391頁参照)。

 

もっとも,本件条項では「被保険自動車の盗難」が

他の保険事故と区別して記載されているが,これは,

本件約款が保険事故として「被保険自動車の盗難」を

含むものであることを保険契約者や被保険者に対して

明確にするためのものと解すべきであり,

少なくとも保険事故の発生や免責事由について

他の保険事故の場合と異なる

主張立証責任を定めたものと解することはできない。

 

ところで,一般に盗難とは,占有者の意に反する

第三者による財物の占有の移転をいうものと解することができるが,

商法の上記各規定が適用されると解される本件保険契約においては,

被保険自動車の盗難という保険事故が保険契約者又は

被保険者の意思に基づいて発生したことは,

保険者が免責事由として主張,立証すべき事項であるから,

被保険自動車の盗難という保険事故が発生したとして本件条項に基づいて

車両保険金の支払を請求する者は,

被保険自動車の持ち去りが被保険者の

意思に基づかないものであることを

主張,立証すべき責任を負うものではない。

 

しかしながら,上記主張立証責任の分配によっても,

上記保険金請求者は,「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る

被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」

という盗難の外形的な事実を主張,立証する責任を免れるものではない。

 

そして,その外形的な事実は,

「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の

主張する所在場所に置かれていたこと」及び

「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」

という事実から構成されるものというべきである。

 

(2) 原審は,本件保険契約に基づいて車両損害保険金を請求する者は

保険事故の偶発性を含めて盗難が発生した事実を

主張,立証すべき責任を負うとする一方,

「外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」が

立証されれば,盗難の事実が事実上推定されるとした上,

本件では,上記「矛盾のない状況」が立証されているので,

盗難の事実が推定されるとしている。

 

しかしながら,上記保険金請求者は,盗難という保険事故の発生として

その外形的な事実を立証しなければならないところ,

単に上記「矛盾のない状況」を立証するだけでは,

盗難の外形的な事実を合理的な疑いを超える程度にまで

立証したことにならないことは明らかである。

 

したがって,上記「矛盾のない状況」が立証されているので

盗難の事実が推定されるとした原審の判断は,

上記(1)の主張立証責任の分配に実質的に反するものというべきである。

 

そうすると,原審の前記判断には法令の解釈を誤った違法があり,

この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。

 

論旨は上記の趣旨をいうものとして理由があり,

原判決は破棄を免れない。

 

そして,盗難の外形的な事実,すなわち

「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の

主張する所在場所に置かれていたこと」及び

「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」

が証明されたものといえるのかなどについて

更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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