農業協同組合が退任した理事に対して提起する訴えについての組合の代表理事の代表権の有無

(平成15年12月16日最高裁)

事件番号  平成14(オ)545

 

最高裁判所の見解

商法275条ノ4前段の規定(以下,単に「前段の規定」といい,

同条後段の規定を「後段の規定」という。)は,

会社が取締役に対し又は取締役が会社に対し訴えを提起する場合においては,

その訴えについては監査役が会社を代表する旨を定めており,

農業協同組合法39条2項は,農業協同組合の監事について,

商法275条ノ4の規定を,その規定中の「取締役」を

「理事若ハ経営管理委員」と読み替えるなどした上で準用している。

 

そこで,まず,商法275条ノ4の規定の趣旨等についてみるに,

会社の代表取締役は,特別の法律の定めがない限り,

その営業に関する一切の裁判上の行為をする権限を有し,

会社が当事者となる訴訟において会社を代表する権限を有するものである

(商法261条3項,78条1項)。前段の規定は,

その特則規定として,会社と取締役との間の訴訟についての

会社の代表取締役の代表権を否定し,

監査役が会社を代表する旨を定めているが,

その趣旨,目的は,訴訟の相手方が同僚の取締役である場合には,

会社の利益よりもその取締役の利益を優先させ,

いわゆるなれ合い訴訟により会社の利益を害するおそれがあることから,

これを防止することにあるものと解される

(最高裁平成元年(オ)第1006号同5年3月30日第三小法廷判決・

民集47巻4号3439頁,

最高裁平成9年(オ)第1218号同年12月16日第三小法廷判決・

裁判集民事186号625頁参照)。

 

そして,過去において会社れ合い訴訟により

会社の利益を害するおそれがあるとは

一概にいえないことにかんがみると,前段の規定にいう取締役とは,

訴え提起時において取締役の地位にある者をいうものであって,

退任取締役は,これに含まれないと解するのが相当である。

 

そうすると,前段の規定は,会社と退任取締役との間の訴訟についての

会社の代表取締役の代表権を否定する特則規定ではないから,

会社の代表取締役は,会社が退任取締役に対して

提起する訴えについて会社を代表する権限を有するものと解すべきである。

 

もっとも,後段の規定は,商法267条1項の規定により

株主が同項所定の「取締役ノ責任ヲ追及スル訴」の提起を

会社に請求する場合におけるその請求を受けること等について

監査役が会社を代表する旨を定めている。

 

その趣旨は,監査役が取締役の職務の執行を

監査する権限を有し(商法274条1項),

前段の規定により会社と取締役との間の訴訟については

監査役が会社を代表する旨定められたことから,

上記「取締役ノ責任ヲ追及スル訴」の

提訴請求を会社が受けること等についても,

上記監査の権限を有する監査役において

会社を代表することとされたものである。

 

そして,後段の規定の趣旨及び

上記「取締役ノ責任ヲ追及スル訴」には退任取締役に対する

その在職中の行為についての責任を追及する訴訟も含まれ,

その提訴請求等についても監査役が会社を代表して

受けることとされていることにかんがみると,

後段の規定は,監査役において,このような退任取締役に対する

責任追及訴訟を提起するかどうかを決定し,

その提起等について会社を代表する権限を

有することを前提とするものであり,

その権限の存在を推知させる規定とみるべきである。

 

そうすると,監査役は,後段の規定の趣旨等により,

退任取締役に対するその在職中の行為についての

責任を追及する訴訟について会社を代表する

権限を有するものと解するのが相当である。

 

上記のように解する場合には,代表取締役の上記訴訟における

代表権限が否定されることになるのかが問題となるが,

退任取締役に対する上記訴訟における監査役の

代表権限が前段の規定を直接的な根拠とするものでないことは,

前段の規定に関して前記説示したところから明らかである。

 

監査役の上記代表権限の根拠は,上記のとおり,

後段の規定の趣旨等によるものであり,前段の規定のような

会社の代表取締役の代表権を否定する特則規定としては

定められていないことからすると,

監査役が退任取締役に対する上記訴訟について

会社を代表する権限を有することは,

会社と退任取締役との間の訴訟についての

会社の代表取締役の代表権を否定するものではないと解すべきである。

 

以上の点は,商法275条ノ4の規定を準用する

農業協同組合法39条2項の解釈においても同様である。

 

すなわち,同項の規定により読み替えられる

農業協同組合(以下「組合」という。)の「理事」には,

訴え提起時において退任している理事は

含まれないものと解すべきであるから,

同項の規定により準用される商法275条ノ4の規定は,

組合と退任した理事との間の訴訟について組合の代表理事の

代表権を否定する特則規定ではないというべきである。

 

そうすると,組合の代表理事は,組合が退任した理事に対して

提起する訴えについて組合を代表する権限を有するものと

解するのが相当である。

 

してみると,旧組合の代表理事を代表者として提起され,

同人及び訴訟を承継した被上告人の代表理事から

委任された訴訟代理人により追行された本件訴訟における

被上告人の訴訟行為には,違法とすべき点は認められないというべきである。

 

原判決は,これと同旨をいうものとして是認することができる。

論旨は,いずれも採用することができない。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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