退去強制令書発付処分取消請求事件

(平成18年10月5日最高裁)

事件番号  平成17(行ヒ)395

 

この裁判は、

法務大臣が出入国管理及び

難民認定法49条3項所定の裁決をするに当たり

裁決書を作成しなかったことが同裁決及びその後の

退去強制令書発付処分を取り消すべき

違法事由に当たらないとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

(1) 退去強制令書の発付は,外国人の出入国に関する処分であるから,

行政庁の処分等についての不服申立てに関し

一般的な手続を定める行政不服審査法に基づいて

異議申立て及び審査請求をすることはできない(同法4条1項10号)。

 

他方,法は,退去強制令書の発付につき,

入国審査官による審査,特別審理官による

口頭審理及び法務大臣に対する異議の申出という

一連の事前手続を定めている。

 

この手続において,入国審査官は,容疑者が法24条各号の

一に該当すると認定したときは,理由を付した書面をもって,

その旨を容疑者及び主任審査官に知らせなければ

ならないとされている(法47条2項)。

 

これに対し,上記認定に対して容疑者が

法48条1項に基づいて口頭審理の請求をした場合において,

特別審理官が上記認定に誤りがないと判定するときは,

その旨を容疑者及び主任審査官に知らせれば足り,

同判定について書面をもってすべきこととはされていない(同条7項)。

 

また,上記判定に対して容疑者が法49条1項に基づいて

異議の申出をした場合において,

法務大臣が当該異議の申出がする規定が適用されず,

裁決は書面で行わなければならない旨規定している

同法41条1項は適用されないこと,また,

法においては,特別な不服申立手続が定められ,

その一連の手続の一部である法49条3項所定の裁決については

書面で行うべきものとはされておらず,同裁決の通知については

法務大臣が直接容疑者に対して行うものとはされていないこと,

さらに,容疑者に対し裁決書を交付することなどを

予定した規則もないことなどに照らすと,

規則43条が法務大臣の裁決につき裁決書によって

行うものとすると規定した趣旨は,

法務大臣が異議の申出に対し審理判断をするに当たり,

その判断の慎重,適正を期するとともに,

後続する手続を行う機関に対し退去強制令書の発付の

事前手続が終了したことを明らかにするため,

行政庁の内部において文書を

作成すべきこととしたものにすぎないというべきである。

 

したがって,同条は,書面の作成を裁決の

成立要件とするものではないと解するのが相当である。

 

そして,上記のとおり,容疑者に対して

裁決書を交付することが予定されていないことからすると,

同条は,容疑者に対し,裁決書により理由を明らかにして

取消訴訟等を提起する便宜を与えるなどの

手続的利益を保障したものではないというべきである。

 

(2) もとより,被上告人法務大臣が

本件において裁決書を作成しなかったことが

規則43条に違反するものであることは否定できない。

 

しかしながら,上記のとおり,同条は容疑者の

手続的利益を保障することを直接の目的とするものではないし,また,

前記事実関係によれば,上告人が

法24条4号ロに該当することについては,

本件裁決の前段階における認定及び判定の段階で明らかにされ,

上告人も,このことを争っていなかったというのであるから,

これを記載した裁決書が作成されなかったとしても,

本件裁決における退去強制事由の有無についての

被上告人法務大臣の慎重,適正な判断が損なわれたということはできず,

また,その結論に影響を及ぼすものではないことが明らかである。

 

(3) ところで,法務大臣は,法49条3項の裁決に当たって,

容疑者の異議の申出が理由がないと認める場合でも,

特別に在留を許可すべき事情があると認めるときは,

その者の在留を特別に許可することができ(法50条1項),

当該許可は,異議の申出が理由がある旨の裁決とみなされ,

主任審査官は直ちに容疑者を

放免しなければならない(同条3項,法49条4項)。

 

そして,規則42条4号は,法49条1項所定の

法務大臣に対する異議の申出に際しては,

退去強制が著しく不当であることを理由とすることを認めている。

 

そうすると,法務大臣が同条3項に基づき異議の申出が

理由がない旨の裁決をするに当たっては,

容疑者に特別に在留を許可すべき事情があるとはいえないとの

判断を経ていることが予定されていると解される。

 

しかしながら,裁決書の作成を定める規則43条は,

その文理上,法49条3項に規定する裁決に係る書面の作成を定めるにとどまり,

法50条1項の規定により特別に在留を許可するかどうかの判断に係る

書面の作成を求めるものではない。

 

また,規則43条が定める別記第61号様式は,

上記判断に係る事項を記載することを

予定しているものと解することは困難である。

 

これらの点に照らすと,法務大臣が

異議の申出が理由がない旨の裁決をするに当たって,

上記許可をしないとの判断をしたことに係る書面が

作成されなかったとしても,

直ちに同条に違反するものではないというべきである。

 

さらに,上告人は,本件訴訟においては,

特別に在留を許可すべき事情として

上告人が難民に該当することを主張しているが,

前記事実関係によれば,上告人は,退去強制手続等において,

イラン・イスラム共和国政府ないしその関係機関から

迫害を受けるおそれがあることを理由として

同国を出国した旨の供述をしておらず,

本件裁決の時点では難民認定申請もしていなかったというのであるから,

このことをも考慮すると,被上告人法務大臣が本件裁決をするに当たり,

上告人には特別に在留を許可すべき事情がないと

判断したことに関し書面を作成しなかったことが

違法であるとはいえないと解すべきである。

 

(4) 以上のとおりであるから,

本件裁決に当たり被上告人法務大臣が

裁決書を作成しなかったという瑕疵は,

本件裁決及びその後の退去強制令書発付処分を

取り消すべき違法事由に当たるとまではいえないと解するのが相当である。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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