過剰防衛、正当防衛

(平成6年12月6日最高裁)

事件番号  平成2(あ)335

 

最高裁判所の見解

1 原判決の認定した前記事実関係のうち、

本件駐車場の奥の方に移動した際、被告人ら四名が

「Eを本件駐車場奥に追い詰める格好で追って行った」

とする点については、後述のように、これを是認することはできない。

 

2 本件のように、相手方の侵害に対し、

複数人が共同して防衛行為としての暴行に及び、

相手方からの侵害が終了した後に、なおも一部の者が

暴行を続けた場合において、後の暴行を加えていない者について

正当防衛の成否を検討するに当たっては、

侵害現在時と侵害終了後とに分けて考察するのが相当であり、

侵害現在時における暴行が正当防衛と認められる場合には、

侵害終了後の暴行については、侵害現在時における

防衛行為としての暴行の共同意思から離脱したかどうかではなく、

新たに共謀が成立したかどうかを検討すべきであって、

共謀の成立が認められるときに初めて、

侵害現在時及び侵害終了後の一連の行為を全体として考察し、

防衛行為としての相当性を検討すべきである。

 

3 右のような観点から、被告人らの本件行為を、

EがGの髪を放すに至るまでの行為(以下、これを「反撃行為」という。)と、

その後の行為(以下、これを「追撃行為」という。)とに分けて考察すれば、

以下のとおりである。

 

(一)まず、被告人らの反撃行為についてみるに、

EのGに対する行為は、女性の長い髪をつかんで

幹線道路である不忍通りを横断するなどして、

少なくとも二〇メートル以上も引き回すという、

常軌を逸した、かつ、危険性の高いものであって、

これが急迫不正の侵害に当たることは明らかであるが、

これに対する被告人ら四名の反撃行為は、

素手で殴打し又は足で蹴るというものであり、また、

記録によれば、被告人ら四名は、終始、Eの周りを

取り囲むようにしていたものではなく、

A及びBがほぼEとともに移動しているのに対して、

被告人は、一歩遅れ、Fについては、

更に遅れて移動していることが認められ、その間、

被告人は、EをGから離そうとしてEを数回蹴っいるが、

それは六分の力であったというのであり、

これを否定すべき事情もない。

 

その他、Eが被告人ら四名の反撃行為によって

特段の傷害を負ったという形跡も認められない。

 

以上のような諸事情からすれば、右反撃行為は、

いまだ防衛手段としての相当性の

範囲を超えたものということはできない。

 

(二)次に、被告人らの追撃行為について検討するに、

前示のとおり、A及びBはEに対して暴行を加えており、他方、

Fは右両名の暴行を制止しているところ、この中にあって、

被告人は、自ら暴行を加えてはいないが、

他の者の暴行を制止しているわけでもない。

 

被告人は、検察官に対する供述調書において、

「EさんがGから手を放した後、

私たち四人は横並びになってEさんを

本件駐車場の奥に追い詰めるように進んで行きました。

このような態勢でしたから、他の三人も私と同じように、

Eさんに対し、暴行を加える意思があったのだと思います。」

と供述しているところ、原判決は、

右供述の信用性を肯定し、この供述により、

被告人ら四名がEを駐車場奥に追い詰める格好で追って

行ったものと認定するとともに、

追撃行為に関して被告人の共謀を認めている。

 

しかし、記録によれば、Eを追いかける際、被告人ら四名は、

ほぼ一団となっていたということができるにとどまり、

横並びになっていたわけではなく、また、

本件駐車場は、ビルの不忍通り側と裏通り側とのいずれにも

同じ六メートル余の幅の出入口があり、

不忍通りから裏通りを見通すことができ、

奥が行き詰まりになっているわけではない。

 

そうすると、被告人ら四名が近付いて来たことによって、

Eが逃げ場を失った状況に追い込まれたものとは認められないのであり、

「被告人ら四名は、Eを駐車場奥に追い詰める格好で追って行った」旨の

原判決の事実認定は是認することができない。

 

したがって、また、被告人の右検察官に対する供述中、

自分も他の三名もEに暴行を加える意思があったとする部分も、

その前提自体が右のとおり客観的な

事実関係に沿わないものというべきである以上、

その信用性をたやすく肯定することはできない。

 

そして、Eを追いかける際、被告人ら四名が

ほぼ一団となっていたからといって、

被告人ら四名の間にEを追撃して暴行を加える意思があり、

相互にその旨の意思の連絡があったものと即断することができないことは、

この四人の中には、A及びBの暴行を二度にわたって

制止したFも含まれていることからしても明らかである。

 

また、A及びBは、第一審公判廷において、

Eから「馬鹿野郎」と言われて腹が立った旨供述し、

Eの右罵言がAらの追撃行為の直接のきっかけとなったと認められるところ、

被告人がEの右罵言を聞いたものと認めるに足りる証拠はない。

 

被告人は、追撃行為に関し、第一審公判廷において、

「謝罪を期待してEに付いて行っただけであり、

暴行を加えようとの気持ちはなかった。

Gの方を振り返ったりしていたので、

BがEに殴りかかったのは見ていない。FがAとEの間に入って

やめろというふうに制止し、一瞬間があいて、これで終わったな、

これから話し合いが始まるな、と思っていたところ、

AがEの右ほおを殴り、Eが倒れた。」旨供述しているのであって、

右公判供述は、本件の一連の事実経過に照らして特に不自然なところはない。

 

以上によれば、被告人については、追撃行為に関し、

Eに暴行を加える意思を有し、

A及びBとの共謀があったものと認定することはできないものというべきである。

 

4 以上に検討したところによれば、被告人に関しては、

反撃行為については正当防衛が成立し、

追撃行為については新たに暴行の共謀が成立したとは認められないのであるから、

反撃行為と追行為とを一連一体のものとして総合評価する余地はなく、

被告人に関して、これらを一連一体のものと認めて、

共謀による傷害罪の成立を認め、

これが過剰防衛に当たるとした第一審判決を維持した原判決には判決に

影響を及ぼすべき重大な事実誤認があり、

これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。

 

そして、本件については、訴訟記録並びに原裁判所及び

第一審裁判所において取り調べた証拠によって

直ちに判決をすることができるものと認められるので、

被告人に対し無罪の言渡しをすべきである。

 

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