選挙無効

(平成7年5月25日最高裁)

事件番号  平成7(行ツ)19

 

最高裁判所の見解

1 参議院(比例代表選出)議員の選挙においては、

各政党等のあらかじめ届け出た名簿の登載順位によって

当選人を決定するいわゆる拘束名簿式比例代表制が採られており、

選挙後に参議院(比例代表選出)議員の欠員が生じた場合に、

当該議員の名簿に係る登載者で当選人とならなかったものがあるときは、

選挙会を開き、その者の中から、名簿の順位に従い、

繰上補充により当選人を定めることとし(法一一二条二項)、

繰上補充に際しては、名簿登載者で当選人とならなかったものにつき

除名により当該名簿届出政党等に所属する者でなくなった旨の届出が、

文書で、欠員が生じた日の前日までに選挙長にされているときは、

これを当選人と定めることができないこととし

(同条四項、法九八条二項前段)、

この除名届出書には、当該除名の手続を記載した文書及び

当該除名が適正に行われたことを代表者が誓う旨の

宣誓書を添えなければならないこととしている

(法一一二条四項、九八条三項、八六条の二第六項)。

 

このように、法は、選挙会が名簿届出政党等による除名を理由として

名簿登載者を当選人となり得るものから除外するための要件として、

前記の除名届出書、除名手続書及び宣誓書が

提出されることだけを要求しており、

それ以外には何らの要件をも設けていない。

 

したがって、選挙会が当選人を定めるに当たって

当該除名の存否ないし効力を審査することは予定されておらず、法は、

たとい客観的には当該除名が不存在又は無効であったとしても、

名簿届出政党等による除名届に従って

当選人を定めるべきこととしているのである。

 

そして、法は、届出に係る除名が適正に

行われることを担保するために、

前記宣誓書において代表者が虚偽の誓いをしたときは

これに刑罰を科し(法二三八条の二)、

これによって刑に処せられた代表者が当選人であるときは

その当選を無効とすることとしている(法二五一条)。

 

2 法が名簿届出政党等による名簿登載者の除名について

選挙長ないし選挙会の審査の対象を形式的な事項にとどめているのは、

政党等の政治結社の内部的自律権をできるだけ

尊重すべきものとしたことによるものであると解される。

 

すなわち、参議院(比例代表選出)議員の選挙について

政党本位の選挙制度である拘束名簿式比例代表制を採用したのは、

議会制民主主義の下における政党の役割を

重視したことによるものである。

 

そして、政党等の政治結社は、政治上の信条、意見等を

共通にする者が任意に結成するものであって、

その成員である党員等に対して政治的忠誠を要求したり、

一定の統制を施すなどの自治権能を有するものであるから、

各人に対して、政党等を結成し、又は政党等に加入し、

若しくはそれから脱退する自由を保障するとともに、

政党等に対しては、高度の自主性と自律性を与えて

自主的に組織運営をすることのできる自由を

保障しなければならないのであって、

このような政党等の結社としての自主性にかんがみると、

政党等が組織内の自律的運営として

党員等に対してした除名その他の処分の当否については、

原則として政党等による自律的な解決にゆだねられているものと解される

(最高裁昭和六〇年(オ)第四号頁参照)。

 

そうであるのに、政党等から名簿登載者の除名届が

提出されているにもかかわらず、

選挙長ないし選挙会が当該除名が有効に

存在しているかどうかを審査すべきものとするならば、

必然的に、政党等による組織内の自律的運営に属する事項について、

その政党等の意思に反して行政権が

介入することにならざるを得ないのであって、

政党等に対し高度の自主性と自律性を与えて

自主的に組織運営をすることのできる自由を

保障しなければならないという前記の要請に反する事態を

招来することになり、相当ではないといわなければならない。

 

名簿登載者の除名届に関する法の規定は、

このような趣旨によるものであると考えられる。

 

3 参議院議員等の選挙の当選の効力に関する

いわゆる当選訴訟(法二〇八条)は、

選挙会等による当選人決定の適否を審理し、

これが違法である場合に当該当選人決定を無効とするものであるから、

当選人に当選人となる資格がなかったとして

その当選が無効とされるのは、選挙会等の当選人決定の判断に

法の諸規定に照らして誤りがあった場合に限られる。

 

選挙会等の判断に誤りがないにもかかわらず、

当選訴訟において裁判所がその他の事由を原因として

当選を無効とすることは、実定法上の根拠がないのに

裁判所が独自の当選無効事由を設定することにほかならず、

法の予定するところではないといわなければならない。

 

このことは、名簿届出政党等から名簿登載者の除名届が

提出されている場合における繰上補充による当選人の決定についても、

別異に解すべき理由はない。右2に述べた政党等の内部的自律権を

できるだけ尊重すべきものとした立法の趣旨にかんがみれば、

当選訴訟において、名簿届出政党等から名簿登載者の

除名届が提出されているのに、その除名の存否ないし

効力という政党等の内部的自律権に属する事項を審理の対象とすることは、

かえって、右立法の趣旨に反することが明らかである。

 

したがって、名簿届出政党等による名簿登載者の除名が

不存在又は無効であることは、

除名届が適法にされている限り、

当選訴訟における当選無効の原因とはならないものというべきである。

 

4 前記の事実関係によれば日本新党による本件除名届は

法の規定するところに従ってされているというのであるから、

日本新党による被上告人の除名が

無効であるかどうかを論ずるまでもなく、

本件当選人決定を無効とする余地はないものというべきである。

 

以上と異なる判断の下に本件当選人決定を無効とした

原判決には法令の解釈適用を誤った違法があり、

この違法が原判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。

 

論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、

原判決は破棄を免れない。そして、前記説示に照らせば、

被上告人の請求を棄却すべきである。

 

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