釈明権の行使を怠った違法
(平成8年2月22日最高裁)
事件番号 平成7(オ)2229
最高裁判所の見解
第一審で勝訴した上告人は、
原審で改めて筆跡鑑定の申出をしなかったものの、
原審第二回口頭弁論期日において陳述した準備書面によって、
原審が乙第一号証の被上告人作成名義の
部分の成立に疑問があるとする場合には、
上告人が第一審において筆跡鑑定の申出をした事情を
考慮して釈明権の行使に十分配慮されたい旨を求めていたのである。
そして、乙第一号証の「D」の署名の筆跡と
第一審における被上告人代表者尋問の際に
Dが宣誓書にした署名の筆跡とを対比すると、
その筆跡が明らかに異なると断定することはできない。
このような事情の下においては、原審は、すべからく、
上告人に対し、改めて筆跡鑑定の申出をするかどうかについて
釈明権を行使すべきであったといわなければならない。
原審がこのような措置に出ることなく上告人の抗弁を排斥したのは、
釈明権の行使を怠り、審理不尽の違法を犯したものというほかなく、
この違法が判決に影響を及ぼすことは明らかである。
したがって、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
そして、乙第一号証の被上告人作成名義の部分の成立について
更に審理を尽くさせるため、
本件を原審に差し戻すのが相当である。
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