金融商品取引法21条の2第2項

(平成24年12月21日最高裁)

事件番号  平成23(受)392

 

この裁判は、

株式会社が,臨時報告書及び有価証券報告書の

虚偽記載等の事実の公表をするとともに,

同日,再生手続開始の申立てをした場合において,

金融商品取引法21条の2第2項の規定により損害の額を算定するに当たり,

同条4項又は5項の規定による減額を否定した

原審の判断に違法があるとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

(1) 金商法21条の2第4項又は5項の規定による減額の可否について

 

ア 金商法21条の2第4項及び5項にいう

「虚偽記載等によつて生ずべき当該有価証券の値下り」とは,

当該虚偽記載等と相当因果関係のある

値下がりをいうものと解するのが相当である

(最高裁平成22年(受)第755号ないし第759号

同24年3月13日第三小法廷判決・民集66巻5号1957頁参照)。

 

イ これをまず本件公表日後1箇月間のY株の値動きについてみると,

本件公表日においては,本件虚偽記載等の事実とともに,

本件再生申立ての事実についても公表されていることに照らすと,

本件公表日後のY株の値下がりは,上記両事実が

あいまって生じたものとみるのが相当である。

 

そして,本件再生申立てによる値下がりが本件虚偽記載等と

相当因果関係のある値下がりと

評価することができるか否かについて検討すると,

次のとおりである。

 

上告人が本件再生申立てに至ったのは,前記事実関係のとおり,

平成19年末頃から継続していた

金融機関の融資姿勢の厳格化等に伴う

資金繰りの悪化によるものである。

 

本件虚偽記載等の事実の公表によって上告人の信用が低下した面があることは

否定できないとしても,本件虚偽記載等や,

その事実の公表に起因して,

上記の資金繰りの悪化がもたらされたわけではない。

 

また,前記事実関係によれば,Y株の市場価格次第では,

本件スワップ契約による資金調達が

見込めないわけではなかったのみならず,

仮に本件CBないし本件の返済に充てていたほか,

AによるTOBが同年8月に実施されることも見込まれ,

同年6月19日には上告人が再生手続開始の申立ての検討を一旦は

中止していたというのであって,

本件虚偽記載等がされなかった場合に,

こうしたAとの提携交渉までもが頓挫したことが確実であることを

うかがわせる事情は見当たらない。

 

そうすると,本件虚偽記載等がされた当時,

上告人が倒産する可能性があったことは否定できないものの,

上告人が既に倒産状態又は近々倒産することが

確実な状態であったということはできず,

本件虚偽記載等によってそのことが

隠蔽されていたということもできない。

 

そして,ほかに本件再生申立てによるY株の値下がりが

本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がりであると

評価すべき事情は見当たらない。

 

以上によれば,本件公表日後1箇月間に生じた

Y株の値下がりは,本件虚偽記載等の事実と本件再生申立ての

事実があいまって生じたものであり,かつ,本件再生申立てによる

値下がりが本件虚偽記載等と相当因果関係のある

値下がりということはできないから,

本件再生申立てによる値下がりについては,

本件虚偽記載等と相当因果関係のある

値下がり以外の事情により生じたものとして,

金商法21条の2第4項又は5項の規定によって減額すべきものである。

 

ウ また,本件公表日前1箇月間のY株の値動きについてみると,

記録によれば,Y株は,本件臨時報告書の提出よりも

1箇月以上前の平成20年5月14日に

その市場価格が716円(終値)となった以降,

本件公表日に至るまで,ほぼ一貫して

値下がりを続けていたことがうかがわれる。

 

前記事実関係によれば,上告人は,当時,資金調達に困難を来すなど,

その経営が危ぶまれる状態にあったのであって,

上記値下がりには,上告人の経営状態など本件虚偽記載等とは

無関係な要因により生じた分が含まれていることは否定できない。

 

なお,本件スワップ契約締結後の値下がりについては,

Bが新株予約権を行使するなどして得たY株を市場で売却したことによって

生じた分が含まれている可能性は否定できないが,

仮にそうだとしても,上記のとおり,本件スワップ契約締結以前から

Y株がほぼ一貫して値下がり傾向にあったことなどに照らすと,

本件公表日前の値下がりに本件虚偽記載等とは

無関係な要因により生じた分が含まれていることは

否定できないというべきである。

 

したがって,本件公表日前1箇月間のY株の値下がりには,

本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により

生じた分が含まれているのであるから,この分についても

金商法21条の2第4項又は5項の規定によって減額すべきものである。

 

エ 以上によれば,Y株の値下がりによって

被上告人が受けた損害の一部には,

本件虚偽記載等と相当因果関係のある値下がり以外の事情により

生じたものが含まれているというべきであるのに,

これを否定して,被上告人が受けた損害の全部が

本件虚偽記載等により生じたものであるとして,

金商法21条の2第4項又は5項の規定による

減額を否定した原審の判断には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。

 

(2) 金商法21条の2第2項の適用について

ア 金商法21条の2第2項は,

「公表日前1月間の当該有価証券の市場価額…

の平均額から当該公表日後1月間の当該有価証券の

市場価額の平均額を控除した額」を虚偽記載等により生じた

損害の額とすることができると規定しているが,

同項にいう「公表日前」及び「公表日後」に「公表日」を含まないことは,

その文言上明らかである。

 

したがって,同項にいう「公表日」が

平成20年8月13日である本件においては,

「公表日前」1箇月間とは同年7月13日から

同年8月12日までを指すものである

(ただし,同年7月13日は日曜日であって,

市場取引が行われていないから,

同月14日から同年8月12日までの

市場価額の平均額を算出すべきこととなる。)。

 

しかるに,原審は,本件公表日である平成20年8月13日を

「公表日前」1箇月間に含め,同年7月14日から

同年8月13日までの市場価額(終値)の平均額をもって

金商法21条の2第2項所定の損害の額を

算定する基礎としているのであるから,

原審の判断中この部分にも判決に影響を

及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

イ また,金商法21条の2第2項を

適用して損害の額を算定するためには,

投資者が「公表がされた日…前1年以内」に

当該有価証券を取得していることが必要であり,

公表日に取得した有価証券について,

同項を適用することが許されないことは,

その文言上明らかである。

 

しかるに,原審は,本件公表日である平成20年8月13日に

被上告人が取得したY株100株についても,

金商法21条の2第2項を適用して損害の額を算定しているのであるから,

原審の判断中この部分にも判決に

影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

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