離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意と詐害行為取消権
(平成12年3月9日最高裁)
事件番号 平成10(オ)560
最高裁判所の見解
1 本件合意は、Dが上告人に対し、
扶養的財産分与の額を毎月一〇万円と定めて
これを支払うこと及び離婚に伴う慰謝料二〇〇〇万円の
支払義務があることを認めてこれを支払うことを内容とするものである。
2 離婚に伴う財産分与は、民法七六八条三項の規定の趣旨に反して
不相当に過大であり、財産分与に仮託してされた財産処分であると
認めるに足りるような特段の事情のない限り、詐害行為とはならない
(最高裁昭和五七年(オ)第七九八号同五八年一二月一九日
第二小法廷判決・民集三七巻一〇号一五三二頁)。
このことは、財産分与として
金銭の定期給付をする旨の合意をする場合であっても、
同様と解される。
そして、離婚に伴う財産分与として
金銭の給付をする旨の合意がされた場合において、
右特段の事情があるときは、不相当に過大な部分について、
その限度において詐害行為として
取り消されるべきものと解するのが相当である。
3 離婚に伴う慰謝料を支払う旨の合意は、配偶者の一方が、
その有責行為及びこれによって離婚のやむなきに至ったことを
理由として発生した損害賠償債務の存在を確認し、
賠償額を確定してその支払を約する行為であって、
新たに創設的に債務を負担するものとはいえないから、
詐害行為とはならない。
しかしながら、当該配偶者が負担すべき損害賠償債務の額を
超えた金額の慰謝料を支払う旨の合意がされたときは、
その合意のうち右損害賠償債務の額を超えた部分については、
慰謝料支払の名を借りた金銭の贈与契約ないし
対価を欠いた新たな債務負担行為というべきであるから、
詐害行為取消権行使の対象となり得るものと解するのが相当である。
4 これを本件について見ると、上告人とDとの婚姻の期間、
離婚に至る事情、Dの資力等から見て、
本件合意はその額が不相当に過大であるとした原審の判断は正当であるが、
この場合においては、その扶養的財産分与のうち不相当に
過大な額及び慰謝料として負担すべき額を超える額を算出した上、
その限度で本件合意を取り消し、
上告人の請求債権から取り消された額を控除した残額と、
被上告人の請求債権の額に応じて本件配当表の変更を命じるべきである。
これと異なる見解に立って、
本件合意の全部を取り消し得ることを前提として
本件配当表の変更を命じた原判決には、
法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、
この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
論旨は右の趣旨をいうものとして理由があり、
原判決中被上告人の予備的請求に関する部分は破棄を免れない。
第三 さらに、職権をもって判断するに、
被上告人の予備的請求につき、
主文において本件合意を取り消すことなく
詐害行為取消しの効果の発生を認め、
本件配当表の変更の請求を認容すべきものとした原判決には、
法令の解釈適用を誤った違法があり、
この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、
原判決中被上告人の予備的請求に関する部分は、
この点においても破棄を免れない。
スポンサードリンク