会員契約上の地位の相続性が認められている預託金会員制ゴルフクラブにおける会員の死亡と相続人による預託金返還請求の可否
(平成9年12月16日最高裁)
事件番号 平成7(オ)934
最高裁判所の見解
1 原審の確定した事実関係によれば、
亡Eの取得した会員権は預託金会員制ゴルフクラブの会員権であり、
その関係は、会員と本件クラブを経営する上告人との
間におけるゴルフ場施設の優先的利用権、
預託した保証金の返還請求権、年会費納入の
義務等を内容とする債権的法律関係であると解される
(最高裁昭和四九年(オ)第二四六号同五〇年七月二五日第三小法廷判決・
民集二九巻六号一一四七頁参照)。
そして、本件クラブの会則が死亡を会員資格の喪失事由と
定めているとおり(一五条)、ゴルフ場施設を利用することのできる
ゴルフクラブの会員たる資格は、一身専属的な性質を有しているから、
亡Eの本件クラブの会員としての資格自体は、
相続の対象となるものではない。
しかし、他方において、本件クラブの会則には、
相続に伴う名義変更手続に関して規定が設けられ(一〇条二項)、
会員契約上の地位に相続性が認められているから、
会員が死亡した場合には、保証金返還請求権を
含む右の債権的法律関係が一体としてその相続人に承継され、
相続人は入会承認を得ることを条件として
本件クラブの会員となることのできる地位を取得するものと解される
(最高裁平成六年(オ)第一五九三号同九年三月二五日第三小法廷判決・
民集五一巻三号一六〇九頁参照)。
したがって、本件クラブの会員が死亡した場合には、
会則上、特に保証金の返還を求めることができる旨が規定されていない限り、
その相続人は、会員の死亡を理由に直ちに
右の債権的法律関係の中から保証金返還請求権だけを
行使することはできないものというべきである。
2 この点に関し、本件クラブの会則一五条は、
譲渡、退会、除名、死亡、法人会員の消滅等を
会員資格の喪失事由と定めており、また、会則八条は、
会員資格の喪失事由が発生したときは
上告人は保証金を返還するものとし、退会と法人会員の消滅の場合にだけ
一〇年間の据置期間経過後に保証金を返還すると定めているから、
これらの文言からする限り、形式的には、
退会と法人会員の消滅以外の資格喪失事由が発生した場合には、
上告人は直ちに保証金を返還すべきものと見る余地がないではない。
しかし、他方、会則一〇条二項本文は、会員に相続が開始した場合には、
相続人は名義変更手続をしなければならないものとし、
同項ただし書は、理事会がこれを拒絶した場合に初めて、
保証金の返還を受けることができるものと規定している。
さらに、会員契約上の地位の承継という点において
会員の死亡と類似した性質を有する会員権の譲渡の場合には、
保証金返還の問題が生じないことは明らかであるが、
会則八条にはそのような留保は設けられていない。
これらの点にかんがみると、会則一五条、八条に関して
前記のような解釈を採ることはできず、
本件クラブの会則上、会員の死亡は直ちに
会則八条本文に定める保証金の返還事由には
該当するものではないといわざるを得ない。
そのほか、本件クラブの会則には、会員が死亡した場合に、
相続人が名義変更手続請求と保証金返還請求のいずれかを
選択行使し得ることを認めた規定も存しない。
そして、このように会員に相続が開始した場合に
相続人に保証金返還請求権を行使することを認めない会則の規定は、
必ずしも不合理であるということはできず、
その効力を否定すべき理由は見いだし得ない。
3 そうすると、被上告人らの主張する保証金の
返還事由が発生したと認めることはできず、
他に、亡Eの預託した保証金につき、
返還請求権の始期が到来したことの主張立証もない
(仮に、被上告人らの保証金返還の申出を本件クラブからの
退会の意思表示と見ても、亡Eが保証金を払い込んだ後、
いまだ一〇年の据置期間が経過していないことが明らかである。)。
四 したがって、これと異なる原審の判断には
法令の解釈適用を誤った違法があり、
この違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
この点をいう論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。
そして、以上に説示したところによれば、
被上告人らの本訴請求はいずれも理由がないから、
第一審判決中、上告人敗訴の部分を取り消した上、
右部分に係る被上告人らの請求をいずれも棄却することとする。
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