国家賠償法1条1項

(平成20年4月15日最高裁)

事件番号  平成18(受)263

 

この裁判は、

弁護士会の設置する人権擁護委員会が

受刑者から人権救済の申立てを受け,

同委員会所属の弁護士が調査の一環として

他の受刑者との接見を申し入れた場合において,

これを許さなかった刑務所長の措置に

国家賠償法1条1項にいう違法がないとされた事例です。

 

最高裁判所の見解

公務員による公権力の行使に

国家賠償法1条1項にいう違法があるというためには,

公務員が,当該行為によって損害を被ったと主張する者に対して負う

職務上の法的義務に違反したと認められることが必要である

(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日

第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,

最高裁昭和61年(オ)第1152号平成元年11月24日第二小法廷判決・

民集43巻10号1169頁,最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,

同年(行ヒ)第76号,第77号同17年9月14日大法廷判決・

民集59巻7号2087頁等参照)。

 

ところで,旧監獄法45条2項は

「受刑者及ビ監置ニ処セラレタル者ニハ其親族ニ非サル者ト

接見ヲ為サシムルコトヲ得ス但特ニ

必要アリト認ムル場合ハ此限ニ在ラス」と規定し,

受刑者については親族以外の者との接見を原則として禁止する一方,

刑務所長において特に必要ありと認める場合はこれを許すこととしているが,

この規定は,受刑者と外部の者との接見が,受刑者の身分上,法律上又は

業務上の重大な利害に係る用務の処理のため必要である場合や,

受刑者の改善更生に資する場合がある反面,

刑事施設の規律及び秩序を害する結果を生じ,

受刑者の矯正処遇の適切な実施に

支障を生ずるおそれがあることも否定できないことから,

接見の対象となる受刑者の利益と施設内の規律及び

秩序の確保並びに適切な処遇の実現の要請

(以下「規律及び秩序の確保等の要請」という。)との調整を

図るものであることが明らかである。

 

受刑者との接見を求める者が,接見の対象となる

受刑者の利益を離れて当該受刑者との接見について

固有の利益を有している場合があることは否定し得ないが,

旧監獄法45条2項の規定が,このような受刑者との接見を

求める者の固有の利益と規律及び秩序の確保等の要請との

調整を図る趣旨を含むものと解することはできない。

 

したがって,旧監獄法45条2項は,

親族以外の者から受刑者との接見の申入れを受けた刑務所長に対し,

接見の許否を判断するに当たり接見を求める者の

固有の利益に配慮すべき法的義務を課するものではないというべきである。

 

また,弁護士及び弁護士会が行う基本的人権の擁護活動が

弁護士法1条1項ないし弁護士法全体に根拠を有するものであり,

その意味で人権擁護委員会の調査活動が

法的正当性を保障されたものであるとしても,

法律上人権擁護委員会に強制的な調査権限が付与されているわけではなく,

この意味においても広島刑務所長には人権擁護委員会の調査活動の

一環として行われる受刑者との接見の申入れに応ずべき

法的義務は存在しない。

 

なお,前記事実関係によれば,同刑務所長は,

人権擁護委員会所属の弁護士に対し,

同委員会に人権救済を申し立てた

甲や丙との接見は許しているのであるから,

人権救済を申し立てていない乙や丁との接見を許さなかったからといって,

被上告人の社会的評価や社会からの信頼が低下することにはならず,

人権擁護委員会の調査活動を行う利益が違法に侵害されたということはできない。

 

以上によれば,広島刑務所長の本件各措置について,

国家賠償法1条1項にいう違法があったということはできない。

 

そうすると,上記と異なる見解の下に,

被上告人の請求の一部を認容した原審の判断には,

判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。

 

論旨は理由があり,原判決のうち上告人敗訴部分は破棄を免れない。

 

そして,以上説示したところによれば,

被上告人の請求は理由がなく,

これを棄却した第1審判決は結論において正当であるから,

上記部分につき,被上告人の控訴を棄却することとする。

 

・全文はこちら(裁判所ホームページの本裁判のページ)

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